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ただのむくみと思っていたら気づいた時には重篤な多臓器不全に―「三尖弁逆流症」はなぜ“治せなかった”のか

ただのむくみと思っていたら気づいた時には重篤な多臓器不全に―「三尖弁逆流症」はなぜ“治せなかった”のか

心臓に4つある部屋のうち、全身から戻ってきた血液は右心房から右心室を経て肺に送り出され、ガス交換をしたのちに全身に回ります。右心房と右心室の間を隔てる三尖弁がしっかりとふさがらない状態は「三尖弁逆流症(TR)」といい、これまでは「治したいけれども治せない」病気とされてきました。カテーテルを使ってTRを治療する経皮的三尖弁接合不全修復システム「TriClip(トライクリップ)」の上市に伴い2026年3月18日に開かれたプレスセミナー(アボットメディカルジャパン主催)で、富山大学第二内科教授(循環器内科、腎・高血圧内科科長)の絹川弘一郎先生が「三尖弁閉鎖不全症と心不全:低侵襲治療が必要とされる背景」と題して講演しました。三尖弁逆流症はどのように危険なのか、なぜ治療が進まなかったのかなどについて、絹川先生の講演を再構成してご紹介します。


心不全などが原因の「二次性三尖弁逆流症」は今後も増加

これまで循環器内科における治療の中心は薬物療法でした。近年はカテーテルを使った治療も循環器内科医によって広く行われるようになりました。心臓から全身に血液を送り出す左心側の大動脈弁や僧帽弁のカテーテル治療が幅広く行われるようになる中、残されたターゲットが三尖弁逆流症でした。

なぜ「治したいけれども治せない」状況が続いていたのかについて、まずはお話しします。

三尖弁逆流症の原因は「一次性」「二次性」の2つに大別されます。

一次性は弁そのものが損傷しているケースです。この割合はさほど多くありません。

二次性は他に原因疾患があるために起こり、心房細動などにより右心房が著しく大きくなったり、心不全によって右心室が拡大したりすることで、弁の周囲が引っ張られて逆流が生じるケースです。また、ペースメーカーのリード(線)が弁を通ることで逆流が生じることもあります。ただ、近年はリードのない「リードレスペースメーカー」の登場により回避できる場合も出てきています。

しかし、心不全に伴って発生する二次性の三尖弁逆流症も今後さらに増加していくと予想されています。

静かに進む肝臓や腎臓の障害

三尖弁で逆流が起こると、静脈系で血液の流れが滞ります。そうなったとき、一番多くみられる症状が、足の激しいむくみです。ほかにも倦怠感(けんたいかん)や腸管のむくみによる食欲低下などが起こり、重症になるとおなかに水がたまる「腹水」もみられることがあります。それらの症状をまとめて「右心不全」と呼びます。

さらに、静脈系は肝臓と腎臓に直接影響を与えます。静脈の圧が非常に高くなって10年ほどたつと、肝臓の機能が大きく損なわれ、最終的に肝硬変にまで進むことがわかっています。かつて多かったウイルス性肝炎は減少し、現在は肥満に伴う肝機能障害が主流となる中、三尖弁逆流症に伴う肝硬変は直接的に死に結びつくこともある重大な現象です。

一方、血液をろ過して尿を作る腎臓は、出口である静脈の圧力が高いと腎臓内でうっ血が生じ、うまくろ過ができなくなります。これにより腎障害が引き起こされ、透析が必要になるほど悪化することもあります。

左心不全のように「息が苦しくて救急車を呼ぶ」といった激しい症状ではなく、三尖弁逆流症は「なんとなく体がだるい」「足がむくむ」といった漠然とした症状から始まります。肝臓や腎臓は障害があっても初期には痛みなどの自覚症状がほとんどないため、検査値のわずかな異常を経て、気がついたときには重篤な多臓器不全に陥っていることが多いのです。

配信元: Medical DOC

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