受診者が少ない理由
三尖弁逆流症を抱える潜在的な患者数は多いと推定されていますが、実際に治療を受けている人はごくわずかです。本人が病気を疑っている確率は非常に低く、知らぬ間に肝臓や腎臓が損なわれている人がいる、ということになります。
逆流量が多い重症のケースでは、死亡率が高くなります。2019年のデータによると、最もひどい状態の場合、10年後の生存率はわずか14%という報告があります*。2023年のデータでも、重症の三尖弁逆流症では8年後の生存率が約40%にとどまるとされています**。
三尖弁逆流症は静かに悪い状態まで進んでしまうことが、手術成績が悪い原因であろうと思われます。患者さんが早く受診すれば、肝臓や腎臓が悪くなる前に外科で手術をできるでしょう。しかし、実際にはかなり悪くなってからでなければ受診しないうえ、多くの患者さんが高齢です。
この状態で胸を開く外科手術を行うと院内死亡率が10%弱にも達する可能性があり、外科医も手術を敬遠せざるを得ないのが実情でした。内科医が利尿剤でむくみを取り「コントロールできている」と錯覚している間にも、見えないところで肝臓や腎臓の障害、心筋のダメージは確実に進行しています。結果として、薬で様子を見ても、リスクを冒して手術をしても、最終的な死亡率は同程度になってしまうというデータすら存在していました。
「胸を開けず人工心肺も使わない、体への負担が少ない方法で、弁の逆流だけを治すことができれば、すでに肝臓や腎臓が悪くなっている患者さんにもメリットがあるのではないか」――。(左心室の出口にある)大動脈弁狭窄症に対する「TAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)」は、以前であれば外科医が手術をしたがらなかったような高齢患者さんであっても、状態によっては術後数日で歩いて退院できるという変化をもたらしました。三尖弁逆流症に対するTriClipにも同様の可能性があるのではないかと思っています。
* Benfari et al Excess Mortality Associated With Functional Tricuspid Regurgitation Complicating Heart Failure With Reduced Ejection Fraction Circulation. 2019 Jul 16;140(3):196-206
** Heitzinger et al Contemporary Insights Into the Epidemiology, Impact and Treatment of Secondary Tricuspid Regurgitation Across the Heart Failure Spectrum European Journal of Heart Failure, Volume 25, Issue 6, June 2023, Pages 857–867
*本稿には特定の医療機器についての記述がありますが、情報提供のみを目的としたものであり、医療上の助言や販売促進などを目的とするものではありません。
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