この地域、実は車がないとどこにも行けない「車社会」なんです。初めて二人で遊びに行こうとなった時、頼子ちゃんが申し訳なさそうに切り出しました。
「ねえ冴子さん。うちの車、ベビーカー積んじゃうとチャイルドシートもう一個乗せるスペースなくて……。大人も乗れないし、冴子さんの車に便乗させてもらってもいい?」
「あ、全然いいよ!うちの車、少し広めだから大丈夫」
その時は、深く考えていませんでした。実際、その日は頼子ちゃんが「乗せてもらったお礼!」って、スタバを奢ってくれたんです。 『あ、ちゃんと気遣いができる子なんだな』 そう思って、私も快くハンドルを握りました。
友達に車を出してもらった時にカフェ代を持つ。そういうマナーって、言われなくても自然にやるものだと思っていたから。
でも、その「お礼」があったのは、その一回きりだったんです。
数週間後、また遊びに誘われた時のこと。移動手段の話にならないまま当日を迎えました。 『今日はどうするのかな?』と内心ソワソワしていると、頼子ちゃんは当たり前のような顔で、自分の家のチャイルドシートを抱えて私の車の前に立っていました。
「お待たせー!今日もよろしくね」
「あ、うん。……今日はどこに行く?」
「あ、あのね!ちょっと遠いんだけど、新しくできたあそび場に行きたくて。片道1時間くらいかな!」
えっ、1時間……? 往復2時間、ガソリン代もかかるし、何より運転の労力が……。 そう思いつつも、笑顔で待っている彼女を前に「遠いから嫌だ」とは言えませんでした。
結局、その日は1日中私が運転。さらに「お礼」は、道中で買った子どもたちの安いお菓子だけ。 「これ、リョウくんにも!ついでに買ったから食べて」
……ついで、か。 なんだか、私の運転の価値が「ついでのお菓子」程度に思われている気がして、モヤッとした感情が胸に小さなトゲのように刺さったのでした。
「車社会」でのマナー
車がないと生活に支障がある地域だと、乗せてもらったときのお礼ルールも暗黙で存在するものです。ところが、ママ友・頼子からのお礼はたったの1度きり。図々しさがエスカレートするばかりで、冴子は心身ともに削られます…。
車に限らず、気遣いを忘れてしまっては、気持ちよく付き合うことはできません。モヤモヤを抱えていたある日、偶然にも頼子の夫・昇と会います。
耳を疑った、ママ友の発言
ある日のこと。 たまたま外で昇さんに会いました。
「あ、冴子さん。今から公園行くんですけど、良かったら一緒にどうですか?今日は僕が運転するんで、うちの車にチャイルドシート付け替えればいいですよ」
雪道の運転が苦手な私にとって、それは願ってもない申し出でした。いつも出してもらってばかりだし、たまには甘えてもいいかな……そう思った瞬間。
後ろからひょっこり顔を出した頼子ちゃんが、信じられない言葉を放ったんです。
「えー、昇くん。車、別々がいいな」
「え? なんでだよ。一緒に行ったほうが楽しいだろ?」
昇さんが不思議そうに聞くと、頼子ちゃんは私の顔を見ることなく、スマホをいじりながら言いました。
「だって、チャイルドシート付け替えるの面倒だし。現地集合でよくない?」
耳を疑いました。 今まで、私の車には当たり前のようにチャイルドシートを付け替えて乗ってきたのに。1時間の距離だって運転させたのに。 いざ自分が「出す側」になったら、付け替えが面倒だから別々?
「……そうだよね。ごめん、やっぱりうちも自分の車で行くわ」
私は引きつった笑顔でそう答えるのが精一杯でした。 隣で気まずそうにしている昇さんの視線が痛かったけれど、それ以上に、頼子ちゃんの徹底した「自分ファースト」な姿勢に、私の中の何かがプツリと音を立てて切れた気がしました。
自分が乗せてもらうのはいいのに、いざ自分の家が車を出すとなった途端、渋った頼子。信じられませんね…。今回のできことがきっかけで、冴子は頼子との距離を置くことに。しかし、頼子の図々しさは想像以上だったのです。
ある日、運よく人気のパンを手に入れることができた冴子。その帰り道、頼子に会ってしまったのです…。

