張り紙だけがにぎやかに
それからの2年余り、奥様はほとんどの時間をベッドで過ごされていました。「お弁当、お届けしました」と声をかけると、小さく「ありがとう」と返ってくる日もあれば、静かな寝息だけが聞こえる日もあります。ごくまれに、携帯電話でどなたかと熱心にお話になっていることもありましたが、おおむね家の中は静かで変化のない時間だけが流れているように感じました。
ただ、3カ月に一度ほど県外から息子さんが日帰りで訪れていました。息子さんが来られた後は、いくつかの張り紙は取り除かれ、内容の違うものに差し替えられたり、場所が変わっていたりしました。お手洗いの前に手すりが設置され、「通った後はこの手すりを上げておいてください」「この扉は開けたままにしておいてください」といったような注意書きが増えていたこともありました。奥様が暮らしやすいような工夫をできるだけして、帰られたのだなと思いました。家の中の静けさは変わりませんでしたが、たくさんの張り紙には言葉があふれていました。
やがて奥様は入院され、配達は終わりました。家の前を通るたび、あの張り紙たちと、そこに込められた家族の思いが胸に浮かびます。
まとめ
Aさん夫婦の暮らしから夫婦の絆を感じ、遠方に住む家族の工夫を垣間見ました。そして日々の介護に関わる私たちのような他人の必要性も再認識しました。張り紙の中の「この家で暮らしたい」という言葉が、強く心に残っています。私自身にも、遠方で1人暮らしをしている母がおり、母が同じ気持ちでいることを知っています。母がさらに老いていけば、いつか遠方に暮らす娘として私がたくさんの張り紙を家の中に貼る日が来るのかもしれません。Aさんの家で見たことは、今後の自分に重なる可能性を感じた出来事でした。
※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。
著者:名和なりえ/50代女性・パート
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2026年4月)
※一部、AI生成画像を使用しています。
著者/シニアカレンダー編集部
「人生100年時代」を、自分らしく元気に過ごしたいと願うシニア世代に有益な情報を提供していきます!

