③ルオー、最後のアトリエ
今回の展覧会の見どころの一つは、終盤にあたる「第4章 1940〜50年代 ー 最後のアトリエ」で、ルオーが1948年から使っていた最後のアトリエが一部再現されていることだ。
(展示風景)(筆者撮影)
リヨン駅近くのアパルトマンの一室に設けられたアトリエは、約20平方メートルほどの広さで、中央にはルオーの息子ミシェルがデザインしたと伝えられる大きな半円形のテーブルが置かれている。テーブルの背後には天井まで届く大きな窓があり、昼間は明るい外光を取り入れられるようになっている。
そしてテーブルの上、ちょうど私たちから見て右半分のスペースには、大小あわせて200本以上の筆や大量の絵の具のチューブなどが所狭しと並べられ、中には作品の一部に使われていた中国産の墨まである。
一方反対側の左半分を見ると、大量の習作と思しき紙で埋め尽くされている。ルオーは、このアトリエでしばしば過去の作品とも向き合い、時には筆を入れることもあったという。時には、最初に描いた時と全く異なる様式や手法で全体を描き直してしまうこともあった。
その典型例が、この《モデル、アトリエの思い出》だ。
ジョルジュ・ルオー 《モデル、アトリエの思い出》 1895年/1950年頃 油彩、インク、グアッシュ/カンヴァス パナソニック汐留美術館
この作品が最初に描かれたのは1895年、モローの教室で学んでいた頃だった。画面の中央では、腰布を巻いた男性モデルが支え棒を手に立位でポーズを取り、奥にはイーゼルの前に座ってモデルを描いている学生と思しき人物がいる。恐らく、モローの教室での実際の授業風景なのだろう。
そして最初に描いた時から50年以上の時を経て、ルオーは再び作品と向き合い、現在の自身の画風でもって大きく描き直した。それは、自分のルーツとも言うべきはるかな過去の記憶と向き合うことでもあっただろう。
記憶を掘り起こし、なぞることで、ルオーは己の記憶を熟成させ、新たな表現へと更新していったのだ。
恐らく彼にとって、筆を置くことは終わりと同義ではなかったのだろう。幾度も作品と向き合うことで、さらに深化させ、更新し続ける。それこそがルオーが数十年をかけてたどり着いた制作のあり方と言えよう。
そしてこのアトリエは、ルオーにとって外界から離れ、己と向き合い続けるための「聖域」だったのではないだろうか。
パナソニック汐留美術館では、これまでにも多彩な切り口からルオーを紹介する展覧会が開催されてきた。
そして、アトリエという「創造」の現場に焦点を当てた今回の展覧会は、孤高の画家ルオーの作品創造のプロセスを追体験できる「体感型」の展示と呼べるかもしれない。会場で1枚でも気になる作品と巡り合ったら、足を止め、細部や何層にも塗り重ねられたマチエールを見つめ、思いを巡らせて欲しい。
ルオーが何を思いながら作品と向き合い、筆を動かしていたのか、に。
展覧会情報
ジョルジュ・ルオー アトリエの記憶
会 期:2026年4月11日(土)〜 6月21日(日)
会 場:パナソニック汐留美術館
休館日 :水曜日(ただし4月29日、5月6日、6月17日は開館)
開館時間:午前10時~午後6時(ご入館は午後5時30分まで)
※5月1日(金)、6月5日(金)、19(金)、20 (土)は夜間開館 午後8時まで開館(ご入館は午後7時30分まで)
観覧料(税込)
一般:1,200円、65歳以上:1,100円、大学生・高校生:700円、中学生以下:無料
※障がい者手帳をご提示の方、および付添者1名まで無料でご入館いただけます。
5月18日(月)国際博物館の日は、すべての方が500円でご入館いただけます。
土・日・祝日は日時指定予約制(平日は予約不要)
主 催:パナソニック汐留美術館、朝日新聞社
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ、港区教育委員会
特別協力:ジョルジュ・ルオー財団
