肩関節脱臼は、スポーツ中の外傷として多く見られる一方、一度起こすと再発を繰り返しやすいことが知られています。再発を繰り返すと競技復帰が難しくなるだけでなく、日常生活にも支障を来すケースも少なくありません。そこで、肩関節脱臼が起こりやすい理由から、再発を防ぐための治療やリハビリテーションの考え方までを、医療法人社団全心会理事長で、ぜんしん整形外科 立川スポーツリハビリクリニック 整形外科部長の守重先生に聞きました。
※2026年1月取材。

監修医師:
守重 昌彦(ぜんしん整形外科 立川スポーツリハビリクリニック)
神戸大学医学部医学科卒業。東京大学医学部整形外科学教室入局後、関連病院などで整形外科領域の診療経験を積む。2018年、東京都立川市に「ぜんしん整形外科立川スポーツリハビリクリニック」を開院。地域に根ざした診療を行っている。日本専門医機構認定整形外科専門医、日本整形外科学会認定スポーツ医、日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。日本肩関節学会、日本臨床スポーツ医学会、日本人工関節学会、日本骨粗鬆症学会の各会員。
肩関節の脱臼はなぜ起こる?
編集部
肩関節は、なぜ脱臼しやすい関節なのでしょうか?
守重先生
肩関節は可動域が非常に広く、腕をさまざまな方向に動かせる反面、骨同士のはまりが浅い構造をしているからです。そのため、安定性よりも動きやすさが優先され、外から強い力が加わると脱臼を起こしやすいという特徴があります。
編集部
どのような場面で肩関節脱臼が起こることが多いですか?
守重先生
ラグビーやアメリカンフットボールなど、激しい衝突や接触を伴うスポーツで多く見られます。特に腕が外転・外旋位、つまり“腕を開いた状態”に強制されると、前下方への脱臼を起こしやすくなります。前下方への脱臼はスポーツに限らず、転倒した際に腕が外転・外旋位になることでも同様に起こります。
編集部
強い衝突がない動作でも、脱臼が起こることはあるのでしょうか?
守重先生
あります。例えば、野球の投球動作などでも腕が外転・外旋位になることにより、同じメカニズムで脱臼が起こることがあります。投球動作などによる脱臼の場合、完全脱臼ではなく亜脱臼となることがほとんどで、亜脱臼を繰り返す場合には、完全脱臼と同様の治療が必要です。強い衝突がなくても起こり得る点にも注意してください。
編集部
初めて肩関節脱臼を起こした場合、どのような治療を行うのでしょうか?
守重先生
まずは、医師が関節を正常な位置に戻す整復を行います。その後、痛みや炎症を抑えるために一定期間固定し、関節が落ち着くのを待ちます。以上が治療の第一段階です。
脱臼の治療と再発予防について
編集部
患部を固定すれば再発は防げるのでしょうか?
守重先生
三角巾による簡易的な固定だけでは、2回目の脱臼を防ぐ効果は十分とはいえません。「外旋位固定」という特殊な固定方法を用いることで、再発のリスクがある程度下げられます。
編集部
一度脱臼すると、なぜ繰り返しやすくなるのでしょうか?
守重先生
脱臼によって、肩関節の安定性を保つ役割のある関節唇(かんせつしん)が損傷することが大きな原因です。関節唇が十分に修復されずに脱臼だけを戻しても、肩が外れやすい状態は改善しないため、反復性脱臼につながります。関節唇が修復されない状態になると、生活動作だけでも脱臼するようになってしまいます。
編集部
固定するだけでは治らない脱臼もあるのですね。
守重先生
整復や固定を行っても、その後のスポーツや日常生活で脱臼を繰り返す場合は、保存療法の限界といえるでしょう。特に、若年層は再発率が高いため、根本的な治療として手術を検討する必要があります。
編集部
若年層以外の場合、どのようなケースで手術が選択されるのでしょうか?
守重先生
脱臼を反復している場合や、競技レベルが高いスポーツに取り組み再発を避けたい場合などには、初回脱臼でも手術を選択することがあります。関節の安定性を回復させることで、再脱臼のリスクを下げることが目的です。

