あなたの前なら、素直に泣ける
不倫やセックスがしたいわけではない。ただ少しだけ、自分をさらけ出して、受け止めてほしい。胡桃の願いはそれだけで、匠のやさしさは胡桃の渇望にぴったりとはまりました。匠もまた、妻には気弱さに映るやさしさを、注ぎ込む場所がほしかったのでしょう。お互いの日常を語り、時に悩みを吐露し、穏やかな空気を共有し合う。つい泣き出してしまう胡桃の肩を抱き、公園からネットカフェへ場所を移します。
とはいえ、お互いが、服を着たままのぬくもりしか求めません。肌と肌を合わせたら終わってしまう、とでもいうように、胡桃も匠も、プラトニックを死守します。
いい大人が何をしているのだ? 正真正銘の不倫のほうが清々しい。こんな意見も聞こえてきそうです。でも、深入りしないからこその絆で、終りたくないからこそ一線を超えない。そんな愛もあるのだと、思わずにはいられないのです。
人生が終わるとしたら、最後にいたいのは……
結局、匠と一線を越えるのか、プラトニック不倫を続けるのか、あるいは夫と別れるのか――それは読んでのお楽しみです。漫画では、50代になった胡桃の姿も描かれます。そして、あるニュースをきっかけに、ふと考えるのです。
〈もし明日、人生が終わるなら私は……〉
平凡で従順な胡桃。自ら行動を起こさず、周囲に気を使ってばかりだった胡桃が、どういう選択をするのか。最後まで、「ママみたいになりたくない」と思い続ける長女の真意とは何なのか。
女性の生き方の是非を問う今作、読後に人生を考え直したくなる意欲作です。
<文/森美樹>
【森美樹】
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。X:@morimikixxx

