●とにかく辞めたいだけなら問題ない?
「交渉まではしなくていい、とにかく辞められれば十分」そう思う方も多いと思います。でも、ここにこそ落とし穴があります。
弁護士法72条が禁じているのは、会社との「交渉」だけではありません。依頼者に法律的なアドバイスをすること自体も禁止の対象に含まれます。
つまり、民間の退職代行業者は、「あなたには未払いの残業代を請求する権利がありますよ」「有給があと15日残っているので、退職日をずらせば全部消化できますよ」といった話を、そもそもできません。
そのため、依頼者は「自分にそういう権利があった」ことに一生気づかないまま辞めていくことになりかねません。
弁護士であれば、相談の中で自然と「そういえば残業代は?」「有給は残っていませんか?」と拾い上げてくれます。しかし民間の業者の場合、そういう相談自体ができません。
しかも、退職代行を使いたいと思うほど追い詰められている人は、会社のことを一秒でも早く考えたくないという心理状態にあります。
そんな状態で、「会社への請求とかもうどうでもいいので、そんなことより早く辞めさせて」となるのは自然なことです。
だからこそ、本人が気づかないうちに、本来もらえたはずのお金や休みがそっと置き去りにされてしまいます。
しかも、これらの権利には期限があります。残業代や未払い賃金は、請求できる期間を過ぎると権利そのものが消えてしまいます(原則5年ですが、当面は3年となっています)。
退職後は収入が不安定になりやすいだけに、本来なら数十万円、場合によっては100万円を超える額を取り戻せたかもしれないのに、それを失うのは非常に痛いです。
「辞められれば十分」のつもりが、実は辞めること以外の選択肢を捨てているかもしれない。これが、民間退職代行を使うことの、見えにくいが重たい代償だと思います。
●弁護士への相談も選択肢に
退職代行を扱う弁護士事務所は、近年増えています。費用も以前より安価になってきており、意思表示だけなら民間業者と大きく変わらないケースも出てきています。
そのうえで他の請求の可能性まで相談に乗ってもらえるのであれば、個人的にはそういった弁護士に相談した方が良いのではないかと思います。
特に、最初から未払い賃金や有給休暇の問題があると分かっているのであれば、弁護士への相談を考えるべきだと思います。
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

