家を出た本当の理由
そして、あの夜。
きっかけは、本当に些細なことだった。
里奈に何かを言われて、言い返して。
いつものように、ただの口論で終わるはずだった。
でも、そのとき。
頭の中で、何かが切れた。
言葉が、うまく出てこなくなる。
代わりに、別の衝動がじわじわと湧き上がってくる。
(……やめろ)
自分に言い聞かせても、止まらない。
(このままだと、まずい)
そう思った瞬間、体が勝手に動いていた。
荷物をまとめて、家を出る準備をする。
「ちょっと頭冷やしてくる」
それだけ言って、外に出た。
ドアが閉まったあと、しばらくその場に立ち尽くしていた。
戻るべきか、迷わなかったわけじゃない。
でも、あのまま中にいたら、何をしていたかわからない。
そう思ったら、戻ることはできなかった。
離婚という言葉を選んだのは、逃げじゃない。
そうしないと、守れないものがあると思ったからだ。
里奈も。悠斗も。そして、自分自身も。
一緒にいれば、きっとまた同じことを繰り返す。
だったら、離れた方がいい。
そう考えるしかなかった。
「……これでいいんだ」
もう一度、小さく呟く。
けれどその声は、自分でも信じられないほどにか細く、本心を映すように揺れていた。
あとがき:「離れる」という選択の裏側
家を出るという行動は、一見すると「逃げ」や「無責任」に見えるかもしれません。しかし、恒一の中ではそれは衝動ではなく、「守るため」の選択でした。過去の経験から、自分の感情が制御できなくなる怖さを知っていたからこそ、最悪の事態を避けるために距離を取るという決断をしています。
人は誰しも余裕を失うと、本来の自分ではいられなくなる瞬間があります。そのとき、どう行動するのか。誰かを傷つける前に立ち止まれるのか。
この物語は、夫婦それぞれの視点から「すれ違い」と「守るための選択」を描いていきます。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています。
記事作成: tenkyu_writing
(配信元: ママリ)

