「だって、翔くんもやってたし」
家に着いて、荷物を置いた。
少しだけ間を置いてから、私は悠真に声をかけた。
「ねえ、悠真」
「なに〜?」
振り向いた顔は、いつもと同じ。
だからこそ、余計に言葉を選ぶ。
「今日……児童館で、お友だちに強い言い方しちゃったの?」
できるだけ穏やかに、問いかける。
すると悠真は、少しも迷うことなく答えた。
「うん、言った」
あまりにもあっさりした返事に、言葉を失う。
「……そっか。どんなこと言ったの?」
「えーとね、『それ違うし』とか、『ちゃんとやってよ』とか」
悪びれる様子もなく、思い出しながら話している。
その様子に、胸の奥がざわつく。
「それで……どうして、そういう言い方になっちゃったの?」
そう聞くと、悠真は少しだけ首を傾げてから
「だって、翔くんもやってたし」
そう答えた。
「……え?」
思わず、聞き返してしまう。
「翔くんもさ、同じこと言ってたよ? だから言った」
当たり前のことのように、悠馬はそう答える。
その言葉に、息が詰まる。
翔くんの名前が出てきたこと。
そして、その行動を“基準”にしていること。
「みんな、そういうふうに言ってるし」
続けて出てきた言葉に、何も言えなくなる。
それは、本当に“みんな”なのだろうか。
「……そっか」
なんとか、それだけ返すのが精一杯だった。
頭の中が真っ白になる。
どうしていいのか、わからない。
ただひとつだけ、はっきりと感じていた。
(このままじゃ、いけない。)
でも、何をどう伝えればいいのか。
その答えは、まだ見つからなかった。
あとがき:気づいたとき、親はどう向き合うのか
子どもが誰かに影響を受けて変わっていくことは、決して珍しいことではありません。しかし、それが「誰かを傷つける方向」に向いてしまったとき、親としてどう向き合うべきかはとても難しい問題です。
本作では、“いじめる側になってしまう背景”にある子どもの心理や葛藤にも目を向けながら、単純な善悪では片付けられない現実を描いていきます。
真帆と悠真が、この問題にどう向き合っていくのか、ぜひ見守っていただければ幸いです。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています。
記事作成: tenkyu_writing
(配信元: ママリ)

