もう一度、向き合うために
数日後、私たちはカフェで待ち合わせをした。
向かい合って座るのは、久しぶりだった。
「……久しぶり」
「うん……」
ぎこちない会話。
視線を合わせることすら、少しだけ勇気がいる。
それでも、逃げずに向き合うと決めた。
しばらく沈黙が続いたあと、先に口を開いたのは、恒一だった。
「……ごめん」
その一言に、胸が締めつけられる。
「俺、このままだとダメになると思って……。だから、離れた方がいいって思った」
ゆっくりと、言葉を選びながら話す恒一。
「でも……それで、全部終わらせるのも違うって思ってた」
私は、黙ってその言葉を聞いていた。
そして、今度は私の番だった。
「……私も、ごめん」
自然と、言葉が出ていた。
「余裕なくて、ずっとイライラしてて……。ちゃんと頼ることもできなくて、全部ぶつけちゃってた」
言いながら、胸の奥がじんと熱くなる。
「本当は、一緒に頑張りたかっただけなのに」
その言葉に、恒一が小さく頷いた。
「……俺も、ちゃんと向き合えてなかった」
お互いの言葉が、少しずつ重なっていく。
責めるためじゃなく、理解するための会話。
こんなふうに話したのは、いつぶりだろう。
カフェを出て、車まで歩く。
並んで歩く2人の距離は、まだ少しだけぎこちない。
「……帰ろう。早く帰りたい」
恒一のその一言に、私は静かに頷いた。
「うん」
短い返事。
でも、その中にはたくさんの気持ちが詰まっていた。
家に着いて玄関前に立ったとき、ほんの少しだけ緊張が走る。
でも今度は、迷わなかった。
鍵を開け、ドアを開ける。
その隣に、恒一がいる。
それだけで、胸の奥がじんわりと温かくなる。
あの日から、すべてが元通りになったわけじゃない。
むしろ、変わったことの方が多い。
お互いに、完璧じゃないこと。
余裕がなくなることもあること。
それを、ちゃんと認めるようになった。
だからこそ、無理をしすぎないように。
ひとりで抱え込まないように。
少しずつ、言葉にするようになった。
「ちょっと疲れてる」
「少し手伝ってほしい」
たったそれだけのことだけど、
それができるようになったことが、大きかった。
あのとき、壊れかけた私たちは、完全に元に戻ったわけじゃない。
でも、あのときよりも、少しだけ強くなれた気がする。
隣にいる人と、ちゃんと向き合うこと。
それを、これからも続けていくために、私はそっと息をついた。
あとがき:夫婦の距離は、変えながら守っていくもの
すれ違いの中で一度は離れる選択をした夫婦が、再び向き合うまでの過程を描いた本作。
大きなきっかけではなく、日々の小さな言葉や選択が関係を変えていく様子を通して、「一緒にいること」の意味を見つめ直しました。
完璧ではないからこそ支え合うこと、そして距離を取ることも時に必要であること。夫婦のかたちはひとつではないと感じていただけたら幸いです。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています。
記事作成: tenkyu_writing
(配信元: ママリ)

