悠真がいじめに同調してしまう背景に、「仲間外れへの恐怖」や「身を守るための選択」があったことを知った真帆。正しさだけでは届かない現実に戸惑いながらも、どう伝えるべきか悩み続けていた。そんな中、変わらないトラブルに疲弊する日々の中で、児童館の森下さんに声をかけられる。
繰り返されるトラブルと、届かない言葉
「すみません、少しお時間いいですか?」
その言葉を聞くたびに、胸の奥が重くなるようになっていた。
学校の連絡帳。児童館での引き渡しのとき。あるいは、他の保護者との何気ない会話の中で
「最近、ちょっと言い方が強くて……」
「トラブルになりかけていて……」
悠真の名前が出るたびに、息が詰まりそうになる。
家でも、変わらなかった。
「だから違うって言ってるじゃん」
「ちゃんとやってよ」
何度注意しても、その言葉遣いは繰り返される。
「そういう言い方、やめようって言ったよね?」
強く言えば言うほど、悠真の表情は固くなっていく。
でも、引き下がることもできない。
どう接すればいいのか、わからなくなっていた。
「大丈夫ですか?」その一言に救われて
ある日の夕方。
いつものように児童館へ迎えに行くと、森下さんがこちらを見ていた。
「高瀬さん」
その声に、少しだけ身構えてしまう。
また何か言われるのではないか。
そんな思いが、頭をよぎる。
「少しだけ、お話できますか?」
穏やかな声だった。
でも、どこか違う。
これまでのような張り詰めた空気は、そこにはなかった。
「……大丈夫ですか?」
最初にかけられたのは、そんな言葉だった。
「え……?」
思わず、間の抜けた声が出る。
「最近、少しお疲れのように見えて」
静かに、そう言われた。
その一言が、胸にじんわりと広がる。
「あ……」
言葉が出てこない。
気づけば、目の奥が熱くなっていた。
「すみません……」
思わず、そんな言葉がこぼれる。
何に対して謝っているのか、自分でもわからないまま。
「謝らなくて大丈夫ですよ」
森下さんは、やわらかくそう言った。
「……実は」
気づけば、私は話していた。
悠真から聞いたこと。翔くんとの関係。一緒にやらないと仲間外れにされるかもしれないという不安。
言葉にしながら、自分の中でも整理されていく。
「だからといって、他の子に意地悪をしていい理由にはならないって、わかってるんですけど……」
最後の方は、ほとんど独り言のようだった。
森下さんは、静かに頷きながら聞いてくれていた。
「難しいですよね」
ぽつりと、そう言った。
「その場で浮かないようにするために、周りに合わせてしまう気持ち」
否定されるでもなく、ただ受け止められる。
それだけで、少しだけ肩の力が抜けた。
「大人でも、ありますから」
その言葉に、はっとした。

