近年、脳と腸が密接に影響を与え合う「腸脳相関(ちょうのうそうかん)」に注目が集まっています。腸内細菌の状態が感情やストレス、うつ症状と関連していると研究で示唆されています。本記事では、腸と脳の驚くべきつながりについて、吉田医院の吉田 俊太郎先生に解説してもらいました。
※2025年9月取材。

監修医師:
吉田 俊太郎(吉田医院)
国立金沢大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部附属病院消化器内科やとよしま内視鏡クリニックで経験を積み、2023年、埼玉県深谷市の「吉田病院」を継承し、院長となる。日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、日本がん治療 認定医、日本医師会認定産業医。
腸脳相関とは
編集部
腸脳相関とは、どのような概念なのでしょうか?
吉田先生
腸脳相関は、腸と脳が相互に密接なネットワークを持ち、お互いに影響を与え合っているという考え方です。近年の研究では、腸内の状態が脳に影響を及ぼし、逆に脳の状態が腸にも影響を与えることが分かっています。
編集部
腸と脳はつながっていないのに不思議ですね。
吉田先生
腸には、脳に次いで多くの神経細胞が存在しています。脳からの指令がなくても自律的に機能するため、腸は「第二の脳」とも呼ばれています。腸と脳は自律神経や腸内細菌などを介して情報をやり取りしています。この関係性が「腸脳相関」と呼ばれます。脳でストレスを感じると消化機能に影響が出たり、逆に腸内環境が乱れると感情やストレス耐性に影響を与えたりすることが分かっています。
編集部
具体的にはどのような現象が起きるのでしょうか?
吉田先生
ストレスや緊張でおなかが痛くなったり、下痢をしてしまったりした経験のある人は多いと思います。これは脳がストレスを感じたときに、自律神経を介して腸に刺激を伝え、消化機能を低下させたり腸内細菌のバランスを崩したりするからです。その結果、腸の働きが悪くなり、腹痛などの便通異常が引き起こされます。
幸せホルモンは腸で作られる!?
編集部
逆に、腸はどのように脳へ影響を与えるのでしょうか?
吉田先生
腸内細菌の代謝活動は、神経伝達物質やその前駆体(もとになる物質)の生成と深く関わっています。これらが迷走神経や免疫系を介して、間接的に脳へ影響を与えると考えられています。神経伝達物質は脳内の信号伝達に不可欠なものですが、その一部は腸内細菌の働きによって作られているのです。
編集部
どのような物質が腸に関係しているのでしょうか?
吉田先生
代表的な物質は、気分や感情の安定に関与し「幸せホルモン」とも呼ばれる「セロトニン」です。 脳内のセロトニンは気分の調節に重要な役割を役割を果たします。腸内細菌はその材料となる「トリプトファン」の代謝に影響を与えることで、間接的にセロトニンの合成に関与しています。このバランスが崩れると、幸せを感じにくくなったり、不安や恐怖を感じやすくなったります。
編集部
ほかにも関係する物質はありますか?
吉田先生
やる気や集中力に関わる「ドーパミン」も、腸内細菌と関係の深い物質です。一部の腸内細菌は、ドーパミンの前駆体となるフェニルアラニンなどの代謝に影響を与えることで、脳内のドーパミン経路に関与すると考えられています。

