『この前のオフ、助かったわ! 今度はフルコースでお願いしたいな。さすがに今度はちゃんとお金払うからさ(笑)』
前回のモヤモヤはありましたが、仕事として正規の料金を払ってくれるなら……と、私は予約を受けました。当日、蘭子さんは前回の遅刻を忘れたかのように上機嫌で現れました。
「今日はね、この雑誌みたいなニュアンスネイルにしてほしいの。パーツも盛り盛りで!」
「わかった。うち、こういうデザインだと基本7000円から受けてるんだけど、大丈夫?」
その瞬間、蘭子さんの顔が凍りつきました。
「えっ、7000円? 高くない? 店じゃないんだし、家でやってるんでしょ?」
「家でも、使っているジェルやパーツはプロ仕様のものだし、光熱費も技術料もかかっているから……」
「えー、でも私、敦美さんとは『本当の友達』だと思ってたのに。友達価格とかないの? 2000円……あ、頑張って3000円くらいにしてよ。それなら毎月通ってあげるから」
私は耳を疑いました。材料費と拘束時間を考えたら、3000円では赤字に近い。何より、自分の技術をそんな安価に叩き売ることは、これまで通ってくださっている他のお客様への裏切りです。
「ごめん、蘭子さん。うちは一律でこの価格って決めてるの。友達だからこそ、仕事としてしっかり向き合いたいし、安売りはできないんだ」
ムリな値引き交渉をするママ友
ママ友・蘭子からの要求は、想像を絶するものでした。自宅でサロンを営んでいるとはいえ、3000円では赤字です。それに、敦美にもプロとしてのプライドがあります。「友だちだから」という言葉を盾に、技術を搾取するなんて、許しがたい行為です。
怒って帰ってしまったママ友
私が真剣に伝えると、蘭子さんは露骨に不機嫌な顔をして立ち上がりました。
「ふーん、わかったわ。お金、お金って……。敦美さんって、意外とがめついんだね。友達をお金儲けの道具としか思ってないんだ」
彼女は一度も筆を握らせることなく、捨て台詞を残して去っていきました。玄関のドアが乱暴に閉まる音が、私の胸に痛く響きました。
その夜、夫の光義に相談すると「敦美の技術はそんなに安くないよ。毅然としてて正解だ」と言ってくれましたが、翌日から園での空気が一変しました。
敦美は、プロとして当然の対応をしたまでです。蘭子に、それを責める権利はありません。
ですが、翌日から蘭子は幼稚園で敦美のことを「守銭奴」と言いふらし始めたのです。孤立してしまった敦美は、「少しくらいサービスすればよかった?」と、悩みます。

