先日セレクトショップの展示会で目を引いたのは、珍しい手法で染められた一本のデニムパンツ。聞けば日本人の女性デザイナーが手がけている「MIKAGE SHIN」というブランドのものだという。エッジが効いているのに、普段シンプルな服装しかしない人でも着ているイメージがつく、そんな不思議な魅力のあるアイテムが揃うこのブランドについて調べてみると、デザイナーの経歴もとても面白い。そこで今回は「MIKAGE SHIN」デザイナーである進 美影さんに取材をオファー。ブランドに込められた思いや、広告代理店を辞めデザイナーへと転身した彼女自身についてたっぷりと話を伺ってきました。
進 美影/MIKAGE SHINデザイナー。早稲田大学卒業後、一般企業入社を経て2019年にNYのPARSONS 美術大学を卒業。 「個人の知性と強さを引き出す」をコンセプトに、ジェンダーレスブランド MIKAGE SHIN を NY で立ち上げる。2022 年、日本メンズファッション 協会よりベストデビュタント賞を受賞。
着る人をエンパワーメントし、語りたくなる服を作る
「MIKAGE SHINというブランドは2019年10月にニューヨークで創設をしました。その当時からコンセプトは変わらず『個人の強さと知性を引き出す』を掲げています。ジェンダーレス、エイジレス、ボーダーレス、あらゆるステレオタイプにとらわれない服作りをモットーに、個人の自由な創造性であったり、アートや 知的構造とエンパワーメントすることを目標にしています」
織物の名産地である群馬県桐生市に出向き、ラメ糸入りのオリジナルジャカードを糸染めから作りあげ、贅沢に使用したシャツ。シャツ¥70,400 (MIAKGE SHIN)
「個人的に“語れる服であること”が最も大切で、服に生きざまがあることがすごく重要だと思っています。洋服なら一着5,000円でいいものが買えるこの時代に、多くの人が何万円とする服を買う意味は、それがただの服ではなくアートピースだから。やっぱりそこに魂やストーリーが込められていて、手に入れたいと思うような、リスペクトできる服だから購入するんだと思うんですね。そういった服を持っている自分に自信が持てたり、いい服を着ているとそれに見合う人間になれた気がして勇気が出たり、服はそうやって人に対して生きざまを与えられる存在だと思うから。表面的に素敵な服もデザイン面では重要ですが、さらにそれを着ている人の人生をいかに幸せにできるかっていうところを大切にしたいと思っているんです」
一生物の究極のシャツを目指し作られたアイテム。進さんも「これ以上のシャツは作れないかもしれない」という程にこだわり抜かれた逸品。手洗い可能というのも嬉しい。シャツ¥59,400、スカートベルト¥¥66,000(共にMIKAGE SHIN)
一見すごく複雑に見えて、実際は洗練されミニマルに落とし込まれたデザインは、彼女の服作りのプロセスによく似ている。
「コレクションを組み立てていくときに、まずはアートや写真、音楽や映画など、あえて非言語的な感覚に頼り、今の自分のムードってどういう感じだろうと考え始めることが多いです。音楽を聴きながら、こういう流れるシルエットの服を着たいなとか、そのときの自分に心地のいいものを探します。そうやって視覚や聴覚など多方面から自分のクリエイティブインサイトを汲み上げて、コレクションに落とし込んでいくんです」
オフィスにはたくさんのアーティストの書物がずらり。
「でもそれらをまとめるには語彙力が必要になります。自分のなかで言葉の表現の幅が広がるほど何を考えてるか的確に伝えることができるから……。やっぱり言語化をすることが大事だなと思うので、本を読んだり、それこそアーティストの図録を読んで言葉を使った表現の仕方を学んでいます。あとは、人とのコミュニケーションが好きでたくさんの人の考え方を知りたいと思うので、なるべく普段からさまざまな人と会話をするようにしています。話をしながら、それぞれの人生の歩き方があるから、じゃあこういう服があるとエンパワーメントできるなと想像を働かせます。外交的な部分と内向的な部分のクリエイティブ、それら全てを自分なりに消化して、毎シーズンひとつに収斂していく感じですね」
ファッション業界のゲームチェンジャー的存在へ
24AWのコレクションのテーマは「ゲームチェンジャー」。 デザイナー自身のムードだけではなく世相も敏感に感じ取り、そのときの社会に必要な服を届けていく。
「もともとゲームチェンジャーはスポーツで試合の流れを一気に変えた革命的なプレイヤーに対して使われていた言葉なんですが、 昨今だとITベンチャーを指したり、ビジネスマンにも使われるようになっていて、その言葉の変遷や先駆者のような響きが面白いなとずっと頭の中に残っていました。MIKAGE SHINというブランドは ジェンダーレスをずっと掲げてきて、ようやくたくさんのメンズの方にも着て頂けるようになり、ジェンダーレスブランドとして浸透してきたのですが、洋服を置いてくださるセレクトショップのバイヤーさんには、結局ウィメンズとメンズどっちに商品を置いたらいいのと聞かれることが多くて。ブランドのポジションがこの業界においてずっと浮いてるような感じなんです。ジェンダーレスファッションっていう言葉が浸透してきていても、フラットに性別を織りまぜながら発表してるブランドは少なくて、MIKAGE SHINが、ゲームチェンジャーとまで言うのはちょっと僭越ですけど、ある種特異で異質な存在だよなっていうのをずっと感じていて。じゃあそれを逆手にとって、私たちならではの表現をできたらと思いこのテーマに設定しました」
京都の職人によって独自開発された、世界初の生地デニムボンディングオパールを使用したオリジナルデニム。全ての工程を一人の職人が手作業で行うため、完成までに時間を要する大変希少な生地を使っている。デニム¥66,000 (MIKAGE SHIN)
「ブランドのコレクションを作るときに、 自分のなかでそのとき気になるワードや作品からインスピレーションを受けることも多いのですが、世相や社会のムード、時事なども気にしながら作っています。今このタイミングで作る必要性が本当にある服なのか、時代性も加味していますね。今季のテーマは、AIテクノロジーやデジタル化がどんどん進み、多方面で革命が起きて、ビジネスや社会面もかなりゲームチェンジなテクノロジーの発達が進んでいる今の時代にぴったりだと思いました」

