鹿目サチ(35)は、昨年、トナリの部屋に越してきた、シングルマザーの氷川瑠美(30)を気にかけていた。彼女はわかくして、9歳になる息子・氷川ライを一人で育てていたのだ。出会ったころから瑠美に「危うさ」を感じていたサチだったが、ライが夏休みを迎えたころから、瑠美の様子に違和感を覚え始め…。
トナリに引っ越してきたシングルマザー
私は鹿目サチ(かのめさち)。年齢は35歳。当時の私は、待望の子どもを授かり、娘が生まれたばかりだった。
育休をもらい、はじめての子育てに奮闘していた時…トナリの部屋に、シングルマザーの方が引っ越してきた。
彼女の名前は、氷川瑠美(ひかわるみ)さん。あいさつに来てくれた時、「29歳」だと教えてくれた。
彼女の足元から顔をのぞかせていたのが、息子のライ(らい)くん。瑠美さんに後頭部をぽんっと押され、緊張しながらもきちんとあいさつをしてくれた。
人見知りそうだったが、素直でいい子だなと思ったことを覚えている。ライくんはその時9歳だったので、瑠美さんは20歳の時にライくんを産んだということになる。
29歳。見た目からも実年齢よりわかく見えるほど、瑠美さんの第一印象は“美しくてわかいママ”だった。
それと同時に危うさも感じたのが、氷川家との出会いだった。
美しくてわかいママ
“危うさ”を感じたというのは、ただただ「瑠美さんがわかかったから」ということではない。
彼女のライくんに対する言動…あまりにも、他人の前でキツい言葉をかけているように見えてしまったのだ。
私には、まだ生まれたばかりの娘しかいないから、「9歳の男の子」をきちんと育てるには、「そういう言い方をしないと調子にのってしまうからなのかな?」という憶測でしか考えることができなかった。
歳下といえど、瑠美さんの方がママとしては先輩だ。
その時少しだけ、2人の親子関係に危うさを感じたのだが、出会ったばかりの私が、いきなりどうこう口をはさめることではないと思い、陰ながら氷川家のことを気にかけるようになったのだった。

