筋トレ中や直後に現れる胸の締め付け感や冷や汗などは、見逃してはならない警告サインです。一方、中高年の方にとって心臓と同様に深刻なのが関節へのダメージです。心臓由来の痛みと筋肉痛の違い、そして加齢に伴う関節の変化と激しい運動が関節に与える影響について解説します。

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。
激しい筋トレ中の心筋梗塞を見逃さないための警告サイン
筋トレ中や直後に現れる身体からの警告サインを知っておくことで、重大な事態を防ぐことができます。異変に気づいた際の対応を正確に理解しておくことが求められます。
見逃してはならない前兆と症状
心筋梗塞の典型的な症状は、胸の中央部から左側にかけての強い締め付け感や圧迫感です。「胸が石で押さえられているようだ」と表現する方も多く、数分以上続く場合は特に注意が必要です。痛みが左腕・肩・顎(あご)・背中に広がる「放散痛(ほうさんつう)」も特徴的なサインです。
また、冷や汗・吐き気・めまい・息切れが突然現れた場合も危険なサインです。これらの症状が筋トレ中や直後に出た場合は、直ちに運動を中止し、安静にしてください。改善しない場合や強い胸痛がある場合は、ためらわずに救急車を呼ぶことが命を守る行動となります。
筋肉痛と心臓由来の痛みを区別する
筋トレ後の筋肉痛と心臓由来の痛みを区別することは、素人には難しい場合があります。筋肉痛は一般的にトレーニングの翌日以降に現れ(「遅発性筋肉痛」と呼ばれます)、動かしたときに痛みが増す傾向があります。一方、心臓由来の痛みは安静時にも続くことが多く、動作との関係が薄いのが特徴です。
また、筋肉痛は特定の筋肉のある場所に限定されますが、心臓由来の不快感は広い範囲に漠然と感じられることが多いです。どちらか判断がつかない場合は、自己判断せず、内科や循環器内科を受診することをおすすめします。見落とした場合のリスクを考えれば、早めの確認が安全への近道となります。
中高年の激しい筋トレが関節に与えるダメージ
心筋梗塞と並んで、中高年の激しい筋トレが引き起こすもうひとつの深刻な問題が関節の破壊です。加齢に伴う関節の変化を正確に理解することが、長期的な運動継続のための鍵となります。
加齢とともに変化する関節の構造
関節は骨と骨の間にある軟骨(なんこつ)、靭帯(じんたい)、腱(けん)などで構成されています。軟骨はクッションの役割を果たし、骨同士が直接こすれ合うのを防いでいます。しかし、軟骨は年齢を重ねるにつれて水分量が減り、弾力性が失われていきます。
20代から50代にかけて、膝や股関節の軟骨は徐々に薄くなる傾向があります。また、靭帯や腱のコラーゲン(結合組織を作る主要なタンパク質)の質が変化し、柔軟性が低下するとともに傷つきやすくなります。若い頃と同じ重量・回数のトレーニングを行っても、関節が受けるストレスは以前よりも格段に大きくなっているのです。これは、外見上は「変わっていない」ように見えても、内部では着実に進んでいる変化です。
激しい筋トレが軟骨・靭帯・腱を傷める仕組み
高重量を扱う筋トレや反復回数の多いトレーニングは、関節に繰り返しの衝撃(反復性ストレス)を与えます。このストレスが軟骨の摩耗(まもう)を加速させ、変形性関節症(へんけいせいかんせつしょう)を引き起こす原因となることがあります。変形性関節症は膝・股関節・腰椎に多く見られ、痛みや運動制限をもたらします。
靭帯や腱についても同様で、回復力を超えた負荷が繰り返し加わると、小さな断裂が蓄積されていきます。これを「オーバーユース損傷(使いすぎ損傷)」と呼びます。例えば、「ジャンパー膝(膝蓋腱炎=しつがいけんえん)」や「テニス肘(外側上顆炎=がいそくじょうかえん)」がその典型です。筋力は強くなっていても、関節を支える組織が追いついていないアンバランスな状態が続くと、ある日突然ひどい痛みに見舞われることになります。

