《吉原格子先之図》は光と闇のグラデーションが美しい名作
葛飾応為の現存する作品はわずかですが、特に傑作として知られているのが《吉原格子先之図》です。遊郭街の吉原を舞台に、往来に面して遊女たちが室内に居並ぶ様子を描いています。現代のわたしたちが見ても美しい作品ですが、当時の浮世絵の常識からは大きく逸脱していました。
葛飾応為《吉原格子先之図》(1818〜1860年ごろ)/太田記念美術館, Public domain, via Wikimedia Commons.
《吉原格子先之図》では、光と闇が繊細に混ざり合い、光の届く場所から闇に溶け込む境界線までが、とても細やかに描き分けられています。このような表現は、レンブラント・ファン・レインやヨハネス・フェルメールに似ている気がしませんか?実際、応為は「江戸のレンブラント」とも称されています。
レンブラント・ファン・レイン《夜警》(1642年)/アムステルダム国立美術館, Public domain, via Wikimedia Commons.
画面中央の格子から、室内の提灯の明かりが強く漏れ出し、闇に沈む通りを照らし出しています。この明暗法(陰影法、キアロスクーロ)によって、それまでの浮世絵には見られなかった奥行きや立体感が生まれました。「当時、これほど敏感に光に反応した絵師はいない」といわれるのも納得がいきます。
格子の影が地面に長く伸びる様子。光を浴びて浮かび上がる、着物の鮮やかな色彩。暗がりに紛れる見物客の輪郭。これらが重なり合うことで、妖艶さと哀愁が同居する、吉原という場所の空気感が見事に表現されていると思いませんか?
北斎が「美人画では娘に及ばない」と認めた通り、しなやかな感性と、西洋的な写実への探究心が、《吉原格子先之図》に凝縮されています。光と闇で切り取られた江戸の夜は、時代を超え、今も観る者の心を強く惹きつけてやみません。
葛飾応為が光の先に見たものは?
偉大な父・北斎の陰に隠れてしまうことなく、葛飾応為は浮世絵の新たな扉を開きました。映画『おーい、応為』で描かれたその執念と、名作《吉原格子先之図》における明暗のグラデーションは、これからもわたしたちを魅了するのではないでしょうか。
2026年10月6日(火)〜12月6日(日)には、太田記念美術館で「葛飾応為『吉原格子先之図』 夜景の系譜」展が開催予定です。3年ぶりに「吉原格子先之図」が公開されるほか、夜景を描いた作品が多数展示され、浮世絵における夜の表現について興味を深められることでしょう。気になった方はぜひ足を運んでみてくださいね。
太田記念美術館 Ota Memorial Museum of Art
引用元:年間スケジュール
