橋本病は、別名、慢性甲状腺炎とも呼ばれる甲状腺の病気です。
甲状腺は、喉元に位置し、気管の前方に張り付くように存在する蝶ネクタイ型の臓器です。
甲状腺は全身の代謝に関わっており、橋本病から甲状腺機能低下症を発症すると、代謝が落ちて疲れやすさを感じやすくなる、寒がりになる、抑うつ傾向になるなどの全身症状が出ることがあります。
橋本病から甲状腺機能低下症に進展する割合は、4~5人未満に1人とされています。
内分泌外来をしていると、橋本病と診断された方や、橋本病から甲状腺機能低下症をきたし通院している方に、次のように聞かれる場合が少なくありません。
「食べてはいけないものはありますか?」
「生活上の注意はありますか?」
この記事では、橋本病と診断された方が注意すべき食べ物や食事のポイントを解説します。
参照:『橋本病(慢性甲状腺炎)』(日本内分泌学会)

監修医師:
上田 莉子(医師)
関西医科大学卒業。滋賀医科大学医学部付属病院研修医修了。滋賀医科大学医学部付属病院糖尿病内分泌内科専修医、 京都岡本記念病院糖尿病内分泌内科医員、関西医科大学付属病院糖尿病科病院助教などを経て現職。日本糖尿病学会専門医、 日本内分泌学会内分泌代謝科専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本医師会認定産業医、日本専門医機構認定内分泌代謝・糖尿病内科領域 専門研修指導医、内科臨床研修指導医
橋本病|食事制限が必要なケース

橋本病で食事制限が必要なケースを教えてください
橋本病では、ヨード(ヨウ素)の過剰摂取が甲状腺機能低下症を誘発することがあります。過剰なヨウ素摂取により、甲状腺ホルモン合成が抑制される(Wolff–Chaikoff効果)ためです。ただし、日本人はもともとヨウ素を他民族と比べて多量に摂取している民族であり、一般的な日本人では多少多く摂取しても一時的であれば問題にならないことが多いです。
ヨウ素の多量摂取が問題になるのは、ヨウ素不足の地域で暮らす方々が急にヨウ素を多量に摂った場合といわれています。
参照:
『甲状腺専門医ガイドブック』(日本甲状腺学会)
『橋本病(慢性甲状腺炎)』(日本内分泌学会)
『日本人の食事摂取基準(2025年版)』(厚生労働省)
甲状腺機能低下症の症状がみられなければ食事に制限はありませんか?
神経質になりすぎる必要はありませんが、ヨウ素の摂りすぎで甲状腺機能低下症が悪化することがあります。日本人は、普段から、世界でも多量にヨウ素を摂取している民族です。ヨウ素の過剰摂取が問題になるのは、普段ヨウ素が不足している方が急にヨウ素を過剰に摂る場合に多く、出汁文化では多少のヨウ素過剰は通常の場合問題がないことが多いです。
橋本病で食べてはいけない食品

橋本病で食べてはいけない食品を教えてください
基本的に、日本人の場合、橋本病で食べてはいけない食品はありません。ただし、ヨウ素を毎日過剰に摂取し続けないようには留意しましょう。
ヨウ素は、海藻、特に昆布に多く含まれます。
日本人の食事摂取基準(2025年版)では、ヨウ素の摂取上限量は3.0mg(3,000μg)/日とされています。例えば、とろろ昆布10gには約20mg(20,000µg)のヨウ素が含まれています。昆布茶1杯では、ヨウ素は数mg程度です。
濃い昆布出汁を毎日複数杯飲むと、上限量の3.0mg/日を超える場合もあります。また、海藻料理では3.0mg/日を超えるヨウ素摂取になることがあります。
ただし、腎機能が正常であれば、一時的な過剰摂取でも通常は尿中排泄されるので、大きな問題にはなりにくいです。
参照:
『日本人の食事摂取基準(2025年版)』(厚生労働省)
『Hashimoto thyroiditis: an evidence-based guide to etiology, diagnosis and treatment.』(Pol Arch Intern Med)
昆布出汁を使った料理も避けた方がよいですか?
昆布出汁を使った料理を毎日多量に食べると、橋本病が甲状腺機能低下症に進展したり、甲状腺機能低下症が悪化することがあります。これも、日本人のように出汁文化の食事を摂っている場合は、神経質になりすぎる必要はありません。
サプリメントや薬で気を付けた方がよいものはありますか?
橋本病がある場合、次のサプリメントを摂るとヨウ素を多量に摂取してしまうため、注意しましょう。ヨウ素サプリ
昆布エキス
海藻濃縮サプリ
また、橋本病から甲状腺機能低下症をきたし、レボチロキシンを内服している場合は、飲み合わせの問題で別の注意が必要です。
例えば、以下の食品は吸収を妨げる可能性があります。
大量の大豆製品
食物繊維の多い食品:野菜ジュース、青汁、ダイエット食品など
コーヒー
これらを含む食品を摂取する場合は、レボチロキシンの内服を30〜60分程度あけて行うことが推奨されます。
また、次の薬剤やサプリメントを内服する際は、レボチロキシンの吸収を阻害することが知られています。
カルシウム
鉄
カルシウム(Ca)は、低Ca血症、骨粗鬆症の補助、慢性腎不全のリン吸着として処方されている場合があります。また、鉄剤は、主に貧血のときに処方されます。
カルシウム製剤や鉄剤の内服がある場合は、レボチロキシンの内服から4時間以上あけて内服するようにしましょう。
ここまで、よく遭遇する、代表的な食事中の成分や薬についてご紹介しました。
このほかにも、ヨードうがい薬、胃薬や一部の脂質異常症治療薬、けいれん治療薬などもレボチロキシンとの相互作用が知られています。
詳しくは、薬剤師さんにお薬手帳を見てもらうか、薬局で薬をもらう際に一緒に渡される薬剤情報提供書をご参照いただければ幸いです。

