百日咳は子どもの病気という印象が強い感染症ですが、近年は大人の発症もみられます。大人は、発熱などの目立った症状が出にくく、咳だけが長引くこともあるため、風邪や気管支炎と思って様子をみてしまう方も少なくありません。ただし、症状が軽くみえても周囲へ感染を広げる可能性があります。特に家庭や職場、乳幼児と接する場面では感染対策が重要です。また、乳幼児期にワクチンを接種していても、時間の経過とともに免疫が弱まり、大人になってから百日咳にかかることがあります。
本記事では、大人の百日咳が起こる原因や感染経路、予防の考え方に加え、感染が疑われた場合の受診や生活上の対応について解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医・指導医、日本緩和医療学会認定登録医、禁煙サポーター
大人が百日咳を発症する原因

百日咳とはどのような病気ですか?
百日咳は、百日咳菌(Bordetella pertussis)によって起こる呼吸器の感染症です。主な症状は咳で、発症初期は風邪のような軽い咳や鼻水から始まり、経過とともに咳が長く続くようになります。乳幼児は、連続する激しい咳発作や呼吸が苦しくなる症状が問題となりますが、青年期や成人は症状の現れ方が異なります。大人の場合、臨床症状が非典型的で、二週間以上続く咳や、発作性の咳だけがみられることが多く、発熱などの全身症状がはっきりしない場合もあります。このため、百日咳と気付かれにくいまま経過することがあります。
大人の百日咳の患者数を教えてください
百日咳は小児に多い感染症として知られていますが、大人の患者さんも一定数報告されています。国立健康危機管理研究機構が公表している感染症発生動向調査によると、2025年の全国の百日咳の報告数は89,387人で、前年までと比べて患者数がとても多い年でした。年齢分布をみると、2025年は10〜19歳の増加が目立ち、流行の中心です。一方で、第21週時点の年齢群別集計では、20歳以上の成人が全体の15.2%を占めています。この割合を踏まえると、2025年の通年で、成人の百日咳の患者さんが1万人を超える規模になると考えられます。
ただし、大人の百日咳は発熱などの目立った症状が出にくく、長引く咳のみで経過する場合もあります。そのため、病院を受診せず診断に至らないケースも考えられ、実際の患者数は報告数より多い可能性があります。
参照:
『IDWR 2025年第22号<注目すべき感染症> 百日咳』(国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト)
大人の百日咳の原因を教えてください
大人が百日咳を発症する背景には、免疫の低下が関係しています。百日咳に対する免疫は、感染やワクチン接種によって身につきますが、その効果は時間の経過とともに弱まります。その結果、過去に接種歴がある方でも、再び百日咳菌に感染することがあります。また、職場や家庭など、人と接する機会が多い環境では、咳や会話の際に飛沫を介して菌が広がることがあります。症状が軽い場合でも、咳が続いている間は周囲へ菌を排出している可能性があります。
乳幼児期にワクチンを接種しても百日咳になることはあるのですか?
乳幼児期に百日咳を含むワクチンを接種していても、大人になってから百日咳を発症することはあります。これは、ワクチンによってえられた免疫が永続的ではないためです。大人の百日咳は、長引く咳のみで経過することが多く、重い病気と感じにくい場合があります。しかし、家庭や職場などで周囲の方へ感染が広がる可能性があり、特に乳幼児がいる環境では影響が大きくなります。咳が続く場合には、過去の接種歴にかかわらず、百日咳の可能性も考えることが重要です。
百日咳の感染経路

百日咳の感染経路を教えてください
百日咳は、百日咳菌が気道に感染することで起こる病気で、主な感染経路は飛沫感染です。感染している方の咳やくしゃみ、会話の際に飛び散る細かな飛沫を吸い込むことで、周囲の方にうつります。特別な接触がなくても、近い距離で過ごす時間があると感染が成立することがあります。
大人はどのような感染経路で百日咳になりますか?
大人の場合、家庭や職場など、日常的に人と接する場面で感染することが多くなります。なかでも、家庭内での二次感染が起こりやすいことが知られています。家族のなかに咳が続いている方がいる場合や、同じ空間で長時間過ごす環境では、知らないうちに感染していることがあります。大人の百日咳は、症状が軽く、咳だけが続く形で経過することも多いため、本人が感染していると気付かないまま周囲へうつしてしまう可能性があります。

