「匿名だから」と思って投稿した一言がきっかけで、ある日突然、自分の名前や住所が相手に渡り、晒されてしまう──。
インターネット上の誹謗中傷対策として広がる「発信者情報開示請求」。一方で、開示された情報がSNSなどで拡散され、“晒し行為”につながるケースも問題視されている。
総務省は5月11日、有識者会議「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会」を開き、発信者情報開示制度の課題を議論する新たなワーキンググループ(WG)の設置を決めた。
論点のひとつとなるのが、「開示手続の過程で得た情報の適切な取り扱い」だ。総務省の資料では、開示によって得られた発信者の氏名や住所などをネット上で公開し、新たな権利侵害(晒し行為など)につながる二次被害のケースが指摘されている。
実際にどのようなケースが問題となっているのか。また、制度を見直すうえで、どのような課題があるのだろうか。
発信者情報開示請求や削除請求など、インターネット上の権利侵害対応を多く手がける中澤佑一弁護士に聞いた。
●発信者情報が“晒される”ケースも
──実際に、どのようなケースが問題となっているのでしょうか。
発信者情報開示によって匿名の発信者が判明した後、その氏名や住所などがインターネットやSNS上で公開されるケースがあるようです。
匿名で投稿していた側からすれば、「晒された」と感じるわけです。
──開示手続きが迅速化され、以前よりもスムーズに開示が決まるケースが増えています。このような中で、被害対応の観点から課題はありますか。
まず、「誰が発信者か」を公表する行為が、一律で違法となるわけではありません。住所の公開は行き過ぎな場合が多いと思いますが、違法な権利侵害行為をしていた人物が誰だったのかを公表するだけであれば適法と評価されることも多いでしょう。
現行法の名誉毀損やプライバシー権侵害の枠組みで判断し、違法な晒し行為と、適法な行為を個別に選り分ければ十分ではないでしょうか。
●「目的外利用の罰則新設」に反対する理由
──情報流通プラットフォーム対処法では、開示で得た情報の“目的外利用”に対する直接的な罰則は設けられていません。新たな罰則についてどう考えますか。
不要であり、反対です。
情プラ法7条(※)の義務は、開示請求者に新しい義務を課したものではありません。
もともと、不当に他人の名誉や生活の平穏を害してはいけないという義務は、開示請求に関わらず、法令上、誰もが当然に負っているもので、その確認的な規定にすぎません。
また、東京高裁も、同条(旧プロバイダ責任制限法4条3項)に違反する行為であるか否かは「個別の事実関係を基に」判断されるべきだとしています。
そして、開示請求によって得た発信者情報を「開示の目的外で利用したとしても」、そのこと自体が直ちに同条違反となって不法行為が成立するものではなく、「違法性や権利侵害の有無の判断において考慮されるもの」と判断しています。
仮に悪質な晒し行為があった場合でも、現行法で対応可能です。たとえば、名誉毀損罪(刑法230条)、侮辱罪(同231条)、脅迫罪(同222条)、強要罪(同223条)などを適用できる可能性があります。

