●被害者が「十分に救済された」と感じていない
──このテーマについて、ほかに感じることはありますか。
事案にもよりますが、匿名で他人の権利を侵害しておきながら、「自分の名前は公表されたくない」「晒しだ」と「加害者」側が反発することについて、「被害者」としては思うところがあるのではないでしょうか。
もっとも、そのような感情がありつつも、多くの被害者は、相手を不当に晒すことなど望んでいません。法律上の適切な手続きで責任を追及したいと考えているはずです。
ただ、現在の裁判の判断枠組み上、「十分に救済された」と感じられないケースも少なくありません。発信者情報開示にかかった弁護士費用よりも、最終的に得られる賠償額のほうが少ないケースも珍しくないのです。
●被害者が救済されない仕組みこそ問題だ
──被害者の救済が不十分であるとの声はよく聞かれます
裁判には1〜2年かかることもあります。時間も費用もかかるうえ、相手が慰謝料を支払わないことすらあります。
こうした経済的損害、時間的損害の問題が存在するだけでなく、少額の賠償金を払うだけの相手には相応の抑止効果もないとなれば、正式な法的手続きをとっても、再発防止につながらないと感じる人が出てきます。
結果として、「加害者をSNSで晒して、社会的な制裁を与えたほうが抑止力になる」「逆に訴えられても慰謝料を少し払えばいいだけで痛くもかゆくもない」という発想が合理的になってしまいます。
開示で得た情報を使った違法な晒し行為が、本当に新たな立法措置を必要とするほど広がっている(立法事実がある)のかはわかりません。
もしそうした実態があるのだとすれば、その背景には、インターネット上の権利侵害に対する損害賠償額の低さや、法的救済が十分に機能していないことにあるように思います。
(※情報流通プラットフォーム対処法7条) 第5条第1項又は第2項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者情報に係る発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない
(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)
【取材協力弁護士】
中澤 佑一(なかざわ・ゆういち)弁護士
発信者情報開示請求や削除請求などインターネット上で発生する権利侵害への対処を多く取り扱う。2013年に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル(中央経済社)』を出版。弁護士業務の傍らGoogleなどの資格証明書の取得代行を行う「海外法人登記取得代行センター Online」<https://touki.world/web-shop/>も運営。
事務所名:弁護士法人戸田総合法律事務所
事務所URL:https://todasogo.jp/

