
飼い主さんも愛犬・愛猫も、互いに幸せを得ていることが科学的に解明されつつあります。「第41回世界獣医師会大会」で、公益社団法人日本獣医師会によるイベント「ペットと飼い主の健康 Thanks Buddy !」が開催されました。最新の研究に基づく互いの幸せや、動物との暮らしの普及に貢献した著名人への表彰が行われました。「人と動物の共生の素晴らしさ」についての講演内容をレポートします。
日本獣医師会による「Thanks Buddy Project」のイベントレポート
公益社団法人日本獣医師会では、人と動物の共生の素晴らしさを伝えていくことを目的とする「Thanks Buddy Project(サンクス バディ プロジェクト)」に取り組んでいます。いぬのきもち・ねこのきもちWeb編集室スタッフが、第41回世界獣医師会大会で行われた同プロジェクトのイベントの様子をレポート!
「伴侶動物との暮らしが人の健康及び社会保障制度にもたらす影響」

イベントの講演は、国立環境研究所主任研究員の谷口優先生による「伴侶動物との暮らしが人の健康及び社会保障制度にもたらす影響」から始まりました(以下、谷口優先生の解説よりご紹介します)。
猫との暮らしが飼い主にもたらす影響
猫との暮らしがネガティブな気分を軽減
「パートナーがいる人といない人を分け、さらに猫がいる人といない人を分けた場合、パートナーがいないが猫はいる人が精神的に良好であるというデータが示されました」
猫との暮らしは喘息や食物アレルギーの発症を抑制
「猫といつ暮らし始めたとしても喘息のリスクが下がるというデータが示されました。猫アレルゲン(アレルギー反応を引き起こす猫由来の物質)に強く暴露されていてもアレルギーを発症しないことや、免疫学的な耐性が成立していることが報告されています」
犬との暮らしが飼い主にもたらす影響
子どもの発育発達の遅れがない
「子どもの発育発達(コミュニケーション、運動、問題解決行動、個人と社会の認識など)の研究では、犬と暮らしている家庭ほど子どもの発育発達の遅れがないという結果が出ています」
総死亡リスクが24%減
介護リスクが46%減
認知症の発生リスクが40%減
脳年齢が最大15歳程度若い
「犬との暮らしが私たちに健康に大きな影響を与えている理由は、犬がいることで散歩の習慣があり、身体活動量が高くなることが挙げられます。また、飼い主同士や近隣住民との交流の機会が増え、社会とのつながりをもてることも要因と考えられます。犬との暮らしは命の長さだけでなく、介護になるか否かにも大きな影響をもっている結果が示されました」

犬猫との暮らしが社会に及ぼす影響
医療費が年間2000億円抑えられている
介護費は約半額に抑えられている
社会全体で年間1.4兆円の介護保険費が抑えられている
「犬猫と暮らしている人はそうでない人に比べて病院を受診する回数が少なく、医療費が抑えられているという研究結果があります。私が行っている研究では、介護リスクや認知症発生リスクなどの軽減を含めると、推定値では年間1.4兆円の介護保険費が抑えられていると推定されます。結果次第では、社会に対して大きなインパクトが発信できると思っています」
犬猫と暮らしたいと思っている人の背中を押してあげたい
「学校で動物介在教育を取り入れたり、特別養護老人ホームが入所者と共に犬猫を受け入れたりしています。岡山県獣医師会では獣医師とされた犬猫の健康診断の費用を獣医師会が一定期間負担することで飼育促進につなげる取り組みを行っています。子どもはもちろんシニアにも、動物を迎えたいと思っている人の背中を押してあげてほしいと思います」
(以上、谷口優先生の解説より)
「ヒトとイヌのインタラクションとヒトのウェルビーイングの関係」

続いて、麻布大学獣医学部動物応用科学科教授の菊水健史先生による「ヒトとイヌのインタラクションとヒトのウェルビーイングの関係」の講演が行われました(以下、菊水健史先生の解説よりご紹介します)。
人と犬の共生の始まり
「犬は最古の家畜といわれていて、おそらく3〜4万年前に東アジアで人と犬は共に生活するようになったのだろうと考えています。1万2000年前の墓の中に老人と犬が埋葬されているので、当時すでに家族の一員のようになっていたことがうかがえます。氷河期に人がベーリング海を渡ったときにも犬が同伴していたであろうといわれ、犬は人と一緒に移動しながら狩りを手伝ったということが想定されます」
人との暮らしの中で犬が獲得した特別な能力

犬は人の指さしの指示を理解できる
「人がカップの中にエサを隠し、どちらかを指さすと当てることができるという研究があります。人(ホモ・サピエンス)に最も近いチンパンジーが苦手な指さしを犬が理解できるということがわかり、科学誌『サイエンス』にも発表されました」
犬は視線で人を操作する
「容器におやつを入れて犬が自力で取れない状況にしたときに、犬が人のほうを振り返るという研究があります。飼い主さんは犬の視線でドアを開けたり水を持ってきたりとかなり動かされていると思います。犬が視線で人を操作する能力は、人との共生の中で獲得した能力だといわれています」
犬は人と生物学的な絆を形成する
「オキシトシンというホルモンによりお母さんが養育行動を出し、赤ちゃんは愛着行動を出す。このように互いに寄り添って助け合う関係を繰り返す『ポジティブループ』によって、生物学的な絆が形成されていくだろうと見出しています。人と犬の異種間でも、犬が飼い主をよく見つめ、それに飼い主さんが応えることにより、両者のオキシトシンが上がるという関係を異種間でありながらもつことができるという結果が出ました」
犬がいる家庭の細菌叢の影響
「犬を飼っている家庭の子どもは、家族や友人との関係がうまくいっていることがアンケートで示されました。犬がいると家庭細菌叢が変わるというデータがあります。そこで子どもの口腔内細菌を採取して調べたところ、細菌叢と行動には相関するものがあると推定できる結果でした。
犬がいる家庭の子どもの細菌叢を無菌マウスに付着させたところ、そうでないマウスに比べて他者への関心や危険物からの回避が高く、特に他者の苦痛に対する共感行動が非常に高いというデータが出ました。行動が細菌叢に由来するのではないかという可能性が示されたわけです」
オキシトシンと細菌叢によるウェルビーイングの向上
「犬の飼育は家族や地域の交流を高め、家族や地域の交流の高い人たちはウェルビーイングが高まるという結果です。飼育しているだけではなく、どうやら動物を介して社会とのつながりが生まれることでウェルビーイングを高めると推測できます。
また、家族や地域の交流が多い人ほどオキシトシンも高いというデータがあります。オキシトシンには体を健康にする効果もありますが、家族や社会とのつながりを変えることで、ウェルビーイングを高めるのではないかということも見えてきました。麻布大学ではコミュニティの場をつくろうと計画しています。犬も人も地域もみんなひとつのウェルビーイングを向上させる方向に向かっていければと思っています」
(以上、菊水健史先生の解説より)
