こんにちは、内科医の橋本将吉(ハシモトマサヨシ)です。
会社でおこなわれる健康診断のシーズンが過ぎ、診断結果がお手元に届いた方も多いはず。封筒を開け、判定欄に「血糖値がやや高め」「糖尿病の境界型(予備軍)」といった言葉を見つけたとき、皆さまならどう感じるでしょうか。
「まだ病気ではないから大丈夫」と、そっと結果を机の引き出しに仕舞い込んでしまうかもしれません。あるいは「ついに自分もか……」と落ち込んでしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。糖尿病は一度進行してしまうと、一生付き合っていかなければならない病気です。ですが、この予備軍のタイミングで正しく向き合いさえすれば、その進行を食い止めることは十分に可能です。
体が出してくれた「今のうちに気付いて!」という貴重なサインを、未来の自分を守るためのきっかけに変えていきませんか? 今回は、糖尿病の境界型(予備軍)とはどのような状態なのか、そして食事・運動・体重管理のどれから手をつけるべきかといった「管理の優先順位」について、専門的な視点からわかりやすく解説していきます。
このコラムを書いたのは…
監修/内科医 橋本将吉 先生(西新宿セルフライフ内科クリニック院長)
株式会社Gift Circle(リーフェグループ)代表取締役。西新宿セルフライフ内科クリニック。内科・総合診療・予防医学を専門とし、患者様の生活習慣に寄り添った診療をおこなう。YouTube「ドクターハッシー/内科医 橋本将吉」では、医学知識を一般向けにわかりやすく発信している。
「境界型」と「糖尿病」、本質的に何が違う?

「境界型」と聞くと、少し難しい言葉に感じるかもしれませんが、ひと言でいえば、血糖値が正常な範囲を超えているけれど、まだ「糖尿病」と診断されるまでには至っていない状態のことです。いわば、健康と病気の境目に立っている段階です。では、具体的にどれくらいの数値だと「境界線」の上にいることになるのでしょうか。皆さまの健康診断の結果と照らし合わせながら、今の立ち位置を確認してみましょう!
診断の目安となる数値
お手元に健康診断の結果がある方は、以下の数値に当てはまっていないか確認してみてください! ご自身の数値が「境界線のどのあたりにいるのか」を知ることが、対策の第一歩になります。
空腹時血糖値:110〜125mg/dL
→正常なら110未満ですが、126を超えると糖尿病の疑いになります。
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー):6.0〜6.4%
→過去1〜2カ月の「血糖の平均」です。5.6未満が理想ですが、6.5を超えると糖尿病の可能性が高まります。
75g経口糖負荷試験(2時間値):140〜199mg/dL
→糖分を取った後の回復力を見る検査です。200を超えると糖尿病型と判断されます。
そして「境界型」と「糖尿病」と診断される段階との決定的な違い、それは「膵臓(すいぞう)の回復力」です。血糖値を下げるためのホルモン「インスリン」を作り出す膵臓の細胞は、本格的な糖尿病(2型糖尿病)に進行してしまうと、疲れ果ててしまい、元の元気な状態に戻るのが難しくなります。しかし「境界型」であれば、今すぐ生活習慣を整えることで膵臓を休ませ、その機能を維持したり、回復させたりすることが十分に可能なのです。
「どこも痛くないし、自覚症状もないから大丈夫」と思われるかもしれません。しかし、体内では高めの血糖が血管の壁を少しずつ傷つけ、動脈硬化を進行させています。
今この瞬間にブレーキを踏めるかどうかが、将来の失明や人工透析といった重い合併症、さらには命に関わる心筋梗塞や脳卒中を未然に防ぐ、最大のチャンスなのです。
食事・運動・体重管理の「優先順位」を決める

では「血糖値がやや高め」「糖尿病の境界型(予備軍)」と診断されたとき、具体的にどのような対策をしたらいいのでしょうか? 「明日から毎日10km走る」「大好きな甘いものは一生禁止する」といった極端な計画を立ててしまう方もいらっしゃいますが、実はこれは逆効果です。急激な変化は大きなストレスを生み、そのストレス自体が血糖値を上げる原因にもなりかねません。大切なのは、一気にすべてを完璧にこなそうとしないことです。
まずは「最も効果が出やすく、負担が少ないもの」から一つずつ手をつけていく。この「優先順位」に沿ったステップアップが、無理なく習慣化でき、結果的に最も効率よく数値を下げる近道になります。
それでは、今日からすぐに取り組める「管理の優先順位」を、詳しく見ていきましょう!
①体重管理(優先度:高)
血糖値が上がる大きな原因は、内臓脂肪から分泌される「インスリンの効きを悪くする物質」です。まずはこの悪循環を断つことが最優先です。
目標の目安: 今の体重の「3%」を3〜6カ月かけて落とすことを目指しましょう。
例)体重70kgの方なら約2kg
効果: たった3%と思うかもしれませんが、これだけで内臓脂肪の状態が劇的に改善し、膵臓の負担が軽くなることが科学的にも証明されています。
②食事(優先度:中)
食べる量を減らす「我慢」よりも、血糖値を急上昇させない「技術」を身につけましょう!
ベジファーストの徹底: 野菜や海藻、きのこなどの食物繊維を最初に食べることで、血糖値の急上昇を抑え、糖の吸収を物理的に遅らせます。
「茶色い主食」を選ぶ: 白米に麦を混ぜる、あるいは玄米や全粒粉パンを選ぶ。これだけで食後の血糖値の急上昇(血糖スパイク)を抑えられます。
甘い飲み物を控える: 缶コーヒーや清涼飲料水の糖分は吸収が非常に速く、血管にダイレクトにダメージを与えます。まずはここをお茶や水に変えるだけでも、膵臓への負担は大きく軽減されます。
③運動(優先度:低)
ハードな運動時間を確保しようとするより、日常の「動き」を増やす方が継続しやすく、効果も高いです。
食後30分〜1時間の「ちょい動」: 血糖値がピークになるタイミングで、15分程度の散歩や家事、スクワットを行うのが非常に有効です。
下半身を意識して使う: 体の中で最も糖を消費するのは「筋肉」です。階段を使う、椅子からゆっくり立ち上がるといった動作で大きな筋肉を刺激し、「糖を燃やしやすい体」を作っていくことができます。

