幻覚は、実際には存在しないものが見えたり聞こえたりすると感じる症状です。こころの病気だけで起こると思われやすい症状ですが、認知症、感染症に伴うせん妄、薬やアルコールの影響などでも起こります。急に始まった場合は、身体の不調が背景にあることもあります。見え方や出方の違いを知っておくと、受診の判断に役立ちます。

監修医師:
前田 佳宏(医師)
・精神科/心療内科医
・精神保健指定医
「泣きたくなったら壁を押せ」著者
大人と子どもの双方で、トラウマや愛着障害に心理療法的アプローチを用いる医師。これまでのべ3,000人以上の臨床に携わる。
島根大学医学部卒業。その後、東京大学医学部附属病院精神神経科に入局、東京警察病院や国立精神神経医療研究センター等を経て、児童精神科外来を3年間、トラウマ専門外来を2年間担当。著書『泣きたくなったら壁を押せ』(サンマーク出版、2026年)では、心理療法のプロセスを物語として描き、私たちの感情の奥にある“適応の物語”をたどった。その視点をともに探る場として、オンラインコミュニティ「しなここメイト」を主宰。cotree顧問医。産業医。日本小児精神神経学会所属。
幻覚の基礎知識

幻覚とはどのような状態を指しますか?
幻覚とは、外から刺激がないのに、何かが見える、聞こえる、感じる状態です。本人には現実のこととして受け取られやすく、周囲が否定しても修正しにくいことがあります。幻覚は気分の問題だけでなく、脳や身体の不調のサインとして出ることもあります。
幻視や幻聴と幻覚は異なりますか?
幻覚は症状全体の呼び名です。見える症状は幻視、聞こえる症状は幻聴です。ほかにも、においを感じる幻嗅、味を感じる幻味、身体に異常な感覚を覚える体感幻覚があります。つまり、幻視や幻聴は幻覚の種類です。
一時的に幻覚が見えることはありますか?
あります。脱水、感染症、入院や手術、薬の影響などで脳の働きが一時的に乱れると、せん妄として幻覚が出ることがあります。せん妄は急に始まり、夕方から夜に強くなる、1日のなかで波があるといった出方をしやすい点が特徴です。原因が整うと改善することもあります。高齢の方では、肺炎や尿路感染症などをきっかけに生じることもあります。急な混乱や落ち着かなさを伴うときは、身体の不調が背景にある可能性も考えます。
参照:『薬剤性せん妄 患者向けマニュアル』(PMDA)
幻覚は誰にでも起こる可能性がありますか?
起こりえます。ただし、起こりやすい場面はあります。高齢の方、認知症や脳血管疾患がある方、以前にせん妄を起こしたことがある方、飲酒量が多い方、薬の変更が生じた方では、体調の変化をきっかけに生じやすくなります。発熱や脱水、睡眠不足が重なると、ふだんはみられない症状が出ることもあります。特に高齢の方では、感染症や入院をきっかけに急に現れることもあるため、いつもと様子が違うときは注意して経過をみます。
幻覚が見える主な病気や状態

幻覚が見える可能性がある病気を教えてください
代表的な原因には、統合失調症、レビー小体型認知症、せん妄があります。せん妄の背景には、感染症、脱水、電解質異常、腎機能や甲状腺機能の異常、薬の副作用、アルコール離脱などがあります。脳卒中やパーキンソン病などの神経の病気が関わることもあります。幻覚だけを切り取って判断せず、全身状態や経過を併せてみることが欠かせません。参照:『認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版』(国立長寿医療研究センター)
病気によって幻覚の見え方は異なりますか?
異なることがあります。統合失調症では、悪口や監視を受けている内容の幻聴が多く、妄想を伴うことがあります。レビー小体型認知症では、人や動物などがはっきり見える具体的な幻視が特徴です。せん妄では、虫や小動物、人影などの幻視に加えて、場所や日時がわからない、会話がまとまらない、昼夜が逆転するといった変化を伴いやすくなります。参照:
『統合失調症』(こころの情報サイト)
『レビー小体型認知症(DLB)とアルツハイマー型認知症(AD)の識別の仕方はどのようなものがあるでしょうか?』(国立長寿医療研究センター)
風邪などによる感染症で幻覚が見えることはありますか?
あります。風邪そのものというより、高熱、脱水、肺炎や尿路感染症などによる全身状態の悪化をきっかけに、せん妄として現れることがあります。高齢の方では、発熱より先に、ぼんやりする、つじつまの合わないことを言う、夜に急に落ち着かなくなるといった変化がみられることもあります。参照:『せん妄』(健康長寿ネット)
薬やアルコールの影響で幻覚が見えることはありますか?
あります。睡眠薬、抗不安薬、オピオイド、副腎皮質ステロイド、抗ヒスタミン薬、抗パーキンソン病薬などは、せん妄や幻視のきっかけになることがあります。長く使っていた薬を急に中止した場合にも起こりえます。アルコールでは、離脱症状の一つとして不眠、発汗、ふるえとともに幻覚が出ることがあります。参照:
『薬剤性せん妄 患者向けマニュアル』(PMDA)
『依存症(Dependence)・ICD-10で診断ガイドラインが示されている』(厚生労働省)

