皮下投与で時間短縮、副作用発現率も減少
こうした副作用や時間毒性という課題の解決策として期待されているのが、アミバンタマブの皮下投与製剤です。「ボルヒアルロニダーゼアルファ」という成分を配合することで皮下への浸透を促進し、通常は1〜2ccしか投与できない皮下注射において多量の薬液(~15mL)の投与を可能にしました。
大きなメリットとして挙げられるのは「投与時間の大幅な短縮」です。これまで点滴で約5時間かかっていた投与が、皮下注射になることで5分程度にまで短縮されます。赤松先生は「患者さんが通院に要する時間が大幅に減ることで、アンケート結果からも患者満足度が明らかに改善している」と強調しました。
さらに、国際第3相試験(PALOMA-3試験)の結果により、安全性と有効性の面でも優れたデータが示されています。皮下注射は従来の点滴に比べて血中濃度の上昇が緩やかになるため、懸念されていた注射反応の発現率が13%へと低下し、重篤な副作用も大きく減少しました。静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓など)の発現率も14%から9%へと軽減されています。試験の主要な目的ではないためあくまで参考になりますが、有効性に関して、皮下注群は静注群に劣らない血中濃度を維持し、無増悪生存期間や生存期間の延長においてむしろ静注を上回る傾向がみられました。赤松先生は「有効性の観点で皮下注を躊躇(ちゅうちょ)する理由はなく、皮下注を行っていくことで勇気づけられる患者さんが多いのではないか」と期待を寄せています。
患者の価値観と人生を守るこれからの医療
現在の医療現場では、複数の治療法から患者さんと医師が話し合って方針を決める「シェアード・デシジョン・メイキング(共同意思決定)」が重要視されています。効果は高いが副作用や時間の負担が大きい治療と、負担は軽いが効果がそれなりの治療の間で、多くの患者さんは非常に強い葛藤を抱えています。しかし、「時間毒性が減り、副作用も少なくなり、命も長くなる」可能性がある新しい薬の登場は、治療選択に悩む患者さんの負担を大きく軽減するでしょう。
時間毒性が削減されれば、患者さんは趣味を楽しんだり、仕事を続けたり、家族との日常を大切にすることができます。近年では、治療の評価軸に患者さんの価値観をデータとして組み込む「患者選好研究(プリファレンススタディ)」の取り組みも国内外で始まっており、医療は患者さんの真のニーズを反映する方向へと動き出しています。
外来での皮下注射に関わる診療報酬制度の見直しも進んでおり、医療現場での導入体制も整いつつあります。がんとともに生きる時間が長くなった今、医療は単なる「命の長さ」だけでなく「命の質と時間の使い方」に真摯に向き合う段階に入りました。
「治療にかかる時間が短くなるということを単なる便利さだとは思っていません。患者さんの体力が少し守られる。家族の時間も少し守られる。仕事や生活との両立の仕方も変わってくる――そういった意味で、今回の変化はとても大きいと思っています」と、長谷川さんは新薬が患者さんにもたらすであろうさまざまな効果を語りました。
*本稿には特定の医薬品、治療法についての記述がありますが、情報提供のみを目的としたものであり、医療上の助言や受療促進などを目的とするものではありません。
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