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ファンタジックな『蛙の王さま』の世界をひも解く—挿絵から見えてくる人間と動物の関係

姫と蛙の対比に注目!—3人の画家が描いた物語

グリム童話『蛙の王さま』に登場する末娘の姫は、姉妹のなかでも飛び抜けた美貌を持ち、「お日さまもおどろくほど美しい」(※1)といわれています。いっぽう、蛙はずんぐりした見た目で、姫から「みにくい」「きたならしい」と冷たくあしらわれます。

ちぐはぐなふたりを、画家たちはどのように表現したのでしょうか?

ここでは、19世紀〜20世紀初頭に活躍した、アン・アンダーソン、クララ・ミラー・バード、ジェラルドゥス・ヨハネス・ボスの作品を取り上げ、『蛙の王さま』がどのように描かれてきたのかをご紹介します。

(※1)引用:小澤俊夫監訳『語るためのグリム童話①ヘンゼルとグレーテル』小峰書店、2007年、p.7

①アン・アンダーソン—アール・ヌーヴォーの曲線美を取り入れた幻想的な表現

01_The_Frog_Prince_-_Anne_Andersonアン・アンダーソン『蛙の王さま』, Public domain, via Wikimedia Commons.

グリム兄弟やアンデルセンの童話をはじめ、100冊を超える本の挿絵を手がけたアン・アンダーソン(Anne Anderson, 1874〜1930)。スコットランドを拠点に活躍し、挿絵のほかにも、グリーティングカードや水彩画など、多彩な作品を制作しました。

アンダーソンは、19世紀末〜20世紀初頭にヨーロッパで広まった、アール・ヌーヴォーの様式を取り入れた画家として知られています。

アール・ヌーヴォーとは、自然のなかにあるモチーフに着想を得た、優美な曲線が特徴の芸術様式です。『蛙の王さま』の挿絵(上の画像)も、垂直な線がほとんど見られず、流れるような曲線で描かれています。

アンダーソンは、「王さまのお城の近くに大きな暗い森があり」(※2)という原作の風景を再現し、可憐な少女とのコントラストを活かして、幻想的なシーンをつくり上げました。

さらに、彼女ならではのオリジナリティも発揮し、姫と蛙が出会う場所を、泉ではなく井戸に変更しています。井戸の周りに市松模様のようなデザインが施されており、運命的なめぐり合いを引き立てているように感じられる作品です。

(※2)引用:川端強編、矢崎源九郎、植田敏郎、乾侑美子訳『グリムの昔話(3)森の道編』童話館出版、2003年、p.134

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②クララ・ミラー・バード—幼い子どもの愛らしさがあふれる作品

02_Frog_Prince,_CM_Burd,_New_York_Tribune,_August_24,_1919クララ・ミラー・バード『蛙の王さま』, Public domain, via Wikimedia Commons.

ニューヨーク生まれのクララ・ミラー・バード(Clara Miller Burd, 1873〜1933)は、同市の2つの美術学校で学び、ナショナル・アカデミー・オブ・デザイン(National Academy of Design in New York)で、とくに高く評価されたイラストレーターでした。

児童書の挿絵のほか、有名な雑誌の表紙も手がけるとともに、ステンドグラスデザイナーとして多くの教会の窓をデザインし、壁画の装飾も担当しました。

デザインにも長けていた彼女の作品は、シーンを効果的に見せる構図と、服装や植物などの細かな表現が魅力です。『蛙の王さま』の挿絵も、絵の主役がだれなのかが分かりやすく、姫が身につけているアクセサリーや水辺に咲く花が、繊細に描かれています。

また、この作品の大きな特徴は、姫が幼い子どもの姿をしている点です。森で遊んでいた少女が蛙と出会い、ふたりで仲良く会話している——そんなストーリーを想像させます。

原作では、姫が醜い蛙に嫌悪感を抱きますが、バードの作品は、まるで友達同士で遊んでいるような微笑ましさが感じられます。

03_1280px-Sleeping_Beauty_&_Frog_Prince,_CM_Burd,_New_York_Tribune,_August_24,_1919『蛙の王さま』と『眠れる森の美女』が掲載された日刊紙『ニューヨーク・トリビューン』(1919年8月24日), Public domain, via Wikimedia Commons.

バードの『蛙の王さま』が掲載された日刊紙『ニューヨーク・トリビューン』を見ると、『眠れる森の美女』のヒロインと王子も、小さな子どもとして描かれているのが分かります。愛らしく親しみやすい雰囲気にあふれた作品です。

③ジェラルドゥス・ヨハネス・ボス—動物への温かいまなざしと情景の繊細な描写

04_Sprookjes_uit_de_nalatenschap_van_Moeder_de_Gans_-_KW_BJ_26563_-_after002_(cropped)ジェラルドゥス・ヨハネス・ボス『カエルの王、あるいは鉄のヘンリー(原題 “De koning der kikvorschen, of de ijzeren Hendrik”)』の挿絵, Public domain, via Wikimedia Commons.

ジェラルドゥス・ヨハネス・ボス(Gerardus Johannes Bos, 1825〜1898)は、オランダで活躍した画家・版画家です。オランダ最古の大学都市といわれるライデンに生まれ、ライデン絵画・素描アカデミー(the Leiden Academy for Painting and Drawing Ars Aemula Naturae)の理事も務めた著名な人物です。

おもに油彩で風景画と動物画を描き、光と影のコントラストを活かした、写実的でドラマチックな作品を生み出しました。

挿絵画家としても活動していたボスの『蛙の王さま』は、ひときわユニークに表現されています。

上の画像でまず目に入るのは、実際の数倍ものサイズで描かれた蛙です。これほど大きな生き物に出会ったらたじろいでしまいそうですが、姫は腰をかがめて、優しい顔つきで話しかけています。

容姿や考え方の違いから、姫と蛙の隔たりが強調されている原作に対し、ボスの作品では、ふたりが対等な関係のように見えます。

動物を描き続けたボスは、生き物と人間の友好的な関係を、童話を通して表現したかったのかもしれません。

もともと魔女は登場していなかった!?—変化してゆく人間と動物の関係

05_The_Frog_Prince_-_Anne_Anderson_2アン・アンダーソン『蛙の王さま』の挿絵。蛙がお城の食卓にやってきて、姫と同じ皿から料理を食べるシーン。, Public domain, via Wikimedia Commons.

ここからは、『蛙の王さま』のストーリーに注目し、童話が変化していった理由をひも解いてみましょう。

物語のあらすじとして広く知られているのは、悪い魔女によって蛙に変えられてしまった王子が、姫と出会って魔法が解けるというものです。しかし、もともとのお話に魔女は登場しておらず、後から付け加えられたといわれています。(※3)

グリム童話集の初版には、単に「変身」と書かれているだけで、なぜ姿が変わったのか原因は明らかにされていません。

最初の手がかりとなるのが、ことばを話す動物の童話が、いつ頃生まれたのかという点です。
『蛙の王さま』は、ドイツの古代〜中世初期が起源といわれるほど、古い童話だと考えられています。

中世期には、動物とコミュニケーションが取れると信じていた人々が多く、こうした文化を背景に、人間と会話する動物の童話が生まれたそうです。(※4)

ところが、キリスト教が広まり、人間中心主義が提唱されると、動物は別世界に属しており、人間よりも劣るという思想が一般的になりました。人々と動物の関係が変化するなかで、王子が無理やり姿を変えられたという筋書きや、魔女の存在が加えられたのではないかという見方もできます。

(※3)グリム童話集は、初版から第7版まで残されています。グリム兄弟が、聞き取り調査をした民話を、できる限りルーツに近づけようとしたり、読み物として筋が通るように修正したりしたため、版を重ねるごとに文章表現が追加されていきました。(高橋義人『グリム童話の世界—ヨーロッパ文化の深層へ』岩波書店、2010年、p.6〜10)

(※4)(※3)前掲書、p.184

配信元: イロハニアート

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