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【怖い絵】なぜ『死の島』は心を惹きつけるのか──ヒトラーやレーニンも飾った不気味な名画

アルノルト・ベックリン《死の島》(1883年、第三版)アルノルト・ベックリン《死の島》(1883年、第三版)。暗い水面を滑る小舟と、糸杉に覆われた島。5枚描かれたなかで最も広く知られるバージョン。, Public domain, via Wikimedia Commons.

恐ろしい怪物や悲惨な事件が描かれているわけではなく、ただ静かな風景があるだけです。
それなのに一度目を向けると、なぜか記憶にこびりついて離れなくなります。

得体の知れない怖さがあるのに、どうしても視線を外せない。

この静かすぎる絵には、いったい何が仕掛けられているのでしょうか。

白い人影と黒い糸杉

スイスの画家アルノルト・ベックリンが1880年に描いた『死の島』は、あまりの人気に5枚の連作が作られました。

アルノルト・ベックリン《死の島》(1880年)アルノルト・ベックリン《死の島》(1880年)。未亡人マリー・ベルナの依頼で描かれたバージョン。メトロポリタン美術館蔵。, Public domain, via Wikimedia Commons.

『死の島』をじっと見ていると、不思議なことに気づきます。

「死の島」という題名なのに、死体や血など死を感じさせる要素がありません。船に乗る人物が誰なのか、棺に何が入っているのか、島で何が待っているのか、すべてが伏せられています。

何も描かれていないからこそ、私たちは見えないものを勝手に想像し、不安が駆り立てられてしまいます。

そもそも「死の島」という題名すら、画商が売るためにつけたもので、ベックリン自身は「夢を見るための絵」と呼んでいました。作者の意図と私たちが抱く恐怖のあいだには、最初から静かなズレが潜んでいたのです。

知っているはずなのに、知らない

昼間はあれほど見慣れていた学校の廊下が、夕暮れや夜になると一瞬だけ全く別の場所のように感じられた経験はないでしょうか。

教室の位置も窓の形も同じはずなのに、なぜか自分の知っている場所ではないようなよそよそしさを覚える。

すぐに元の感覚に戻るものの、あの一瞬のざわつきには理由があります。

精神分析の創始者であるジークムント・フロイトは、この不安について「不気味なもの」と呼びました。ドイツ語で「不気味な(unheimlich)」を意味する言葉は、もともと「親しい・家庭的な(heimlich)」という言葉から派生しています。

つまり完全に知らない「未知」のものよりも、見慣れたものがふと異質な姿を見せたときの方が、人間は恐怖を感じて落ち着かなくなってしまうのです。

ジークムント・フロイト(1921年頃撮影)ジークムント・フロイト(1921年頃撮影)。「不気味なもの」の正体を探究し続けた精神分析の創始者は、自らの診察室に『死の島』の複製を飾っていた。, Public domain, via Wikimedia Commons.

暗くなった廊下が怖く感じるのも、知っているはずの場所が突然「見知らぬ場所」に変わるからです。

『死の島』も、まさにこれと同じ構造を持っています。

こんな島は現実には存在しないのに、なぜかどこかで見たような気がする。

島も、小舟も、木も、水も、私たちがよく知っているものばかりですが、少し不自然に組み合わさると「自分の知っている世界ではない」という不気味さに変わってしまいます。

興味深いことに「不気味なもの」の正体を探求し続けたフロイト自身も、ウィーンの診察室に『死の島』の複製を飾っていました。患者が横たわる部屋の壁で、彼が言葉にしようとした不安の正体を、この絵が静かに体現していたのです。

配信元: イロハニアート

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