膝に違和感や軽い痛みを感じたとき、安静にすべきか、それとも動いたほうがよいのか迷う人は少なくありません。初期対応によって、その後の経過が変わることもあります。本記事では、膝関節症の初期段階での適切な向き合い方について、まつおか整形外科クリニック院長の松岡大輔先生に聞きました。
※2026年3月取材。

監修医師:
松岡 大輔(まつおか整形外科)
2012年近畿大学医学部卒業。生長会府中病院にて初期臨床研修を修了後、同院整形外科に勤務。奈良県立医科大学附属病院、高清会香芝旭ヶ丘病院整形外科などで研鑽を積み、2024年奈良県立医科大学大学院医学研究科博士課程修了。
変形性膝関節症とは?
編集部
変形性膝関節症とは、どのような疾患ですか?
松岡先生
膝関節の表面を覆う軟骨がすり減り、関節内に炎症が生じることで痛みや動かしにくさが表れる疾患です。加齢の影響は大きいものの、体の使い方や膝への長年の負担の蓄積も関係しています。変形性膝関節症が進行すると、歩行障害につながることもあります。
編集部
変形性膝関節症の発症背景には、どのような要因がありますか?
松岡先生
そもそも膝は体重を支える関節であるため、仕事や生活習慣など日常生活での負担が蓄積しやすい部位です。加齢に加え、肥満やO脚傾向、過去の外傷、スポーツ歴などが関与するため、年齢だけで判断できる疾患ではありません。
編集部
初期の段階では、どのような症状がみられますか?
松岡先生
最初はちょっとした違和感から始まり、徐々に立ち上がる動作や歩き始めに痛む、階段の上り下りがつらくなる、といった症状が代表的です。しばらく動くと症状が軽くなることもあり、様子を見てしまう人もいます。しかし、できればこの段階で対策を始め、進行を抑えたいところです。
編集部
放置するとどうなるのですか?
松岡先生
軟骨は大きく摩耗すると自然に回復することはなく、膝への負担が続けば、症状が徐々に進行します。膝の痛みのために活動量が減ると、筋力低下や体重増加が重なり、さらに負荷が増すという悪循環に陥ることもあります。
膝の痛み、治療と初期対応の考え方
編集部
治療はどのように進めていくのですか?
松岡先生
状態を評価しながら方針を決めます。症状の程度に応じて、まずは運動療法や薬物療法、ヒアルロン酸注射などの保存療法から始めます。多くの場合、いきなり手術を選択するのではなく、膝への負担を軽減し、機能を維持させる治療を優先します。
編集部
保存療法には、ほかにどんなものがありますか?
松岡先生
自費診療にはなりますが、物理療法(※)の1つである「体外衝撃波治療」は、患部に衝撃波を当てることで組織の修復を促し、痛みの軽減を目指す治療で、低侵襲で行えるのが特徴です。有効性については現在も研究が進められています。また、「再生医療」という選択肢もあり、多血小板血漿(PRP)療法などを用いて自己の血液成分から痛みの軽減や関節環境の改善を目的とした治療が行われることもあります。そのほか、症状の進行を抑えるためには日常生活の工夫も欠かせません。※熱や水、光、電気などの物理的なエネルギーを利用して痛みの軽減や血流の改善を図る治療法
編集部
日常生活の工夫とは?
松岡先生
膝だけでなく、姿勢や歩き方など体全体のバランスを評価し、原因に応じた対応があります。床すわりではなく椅子生活、布団よりもベッドなど、関節に負担をかけにくい生活環境にすることは重要です。また、適切な運動を取り入れ、負担を調整することで進行を抑えられる可能性があります。
編集部
痛みがあるときに体を動かしてよいのでしょうか?
松岡先生
強い腫れや熱感がある急性期は、一時的な安静が必要です。ただし、軽度の痛みで炎症が強くない場合は、負担を抑えた範囲で動かすことがすすめられます。なぜなら、過度な安静は筋力低下を招き、結果的に膝への負担を増やしてしまうからです。
編集部
絶対安静にしておいたほうがよい訳ではないのですね。
松岡先生
はい。長期間の完全安静は望ましくありません。大切なのは、痛みの程度に応じて活動量を調整することです。無理をせず、関節に過度な衝撃を与えない範囲で動くことで、筋力を保ち、機能低下を防げます。ただし、自己流で運動すると逆効果になる場合もありますので、医療機関でのリハビリテーションを取り入れることをおすすめします。

