誤嚥性肺炎は食べ物や唾液が誤って気管に入り、肺で細菌が繁殖して炎症を起こす疾患です。
加齢に伴い飲み込む力が衰えると、誰にでも発症のリスクが生じます。
特に食事中は異物が流入しやすく、体力の低下した方にとっては重症化につながるケースも少なくありません。
発症を防ぐためには、病気の仕組みを正しく理解し、日々の生活で適切な対策を整えることが大切です。
本記事では、具体的な食事の工夫や家庭で実践できる予防策を詳しく解説します。

監修医師:
高山 哲朗(かなまち慈優クリニック)
【経歴】
理事長 高山 哲朗
平成14年慶應義塾大学卒業
慶應義塾大学病院、北里研究所病院、埼玉社会保険病院等を経て、
平成29年 かなまち慈優クリニック院長
【所属協会・資格】
医学博士
日本内科学会総合内科専門医
日本消化器病学会専門医
日本消化器内視鏡学会専門医
日本医師会認定産業医
東海大学医学部客員准教授
予測医学研究所所長
誤嚥性肺炎の特徴と食事で起こりやすい理由

誤嚥性肺炎とはどのような症状ですか?
喉の機能が低下して細菌を含む異物が肺に入ると、炎症によって誤嚥性肺炎が引き起こされます。一般的な症状には激しい咳や膿性痰、発熱がありますが、高齢の方の場合はこうした典型的な症状が出ないまま進行する例も珍しくありません。元気がない、食欲が落ちたなどの些細な変化が、病気のサインとなっているケースは少なくありません。病状が進行すると、肺の炎症が広がり呼吸機能の低下を招くことがあります。これにより、夜間の激しい咳き込みや、呼吸時にゼーゼーとした音が混ざる喘鳴(ぜんめい)が現れることがあります。重症化すると酸素不足に陥り、強い倦怠感や動悸を伴いやすいため、速やかな受診を検討しましょう。誤嚥性肺炎は再発しやすいため、日頃の体調の変化を観察し、異変があれば早期の受診を心がけましょう。
誤嚥性肺炎が食事の際に起こりやすい理由を教えてください。
食べ物を飲み込む動作が、加齢などの影響でスムーズに行えなくなることが主な要因です。通常は飲み込む瞬間に喉の蓋が気管を塞ぎますが、この動きが遅れることで食べ物が肺へ流入する恐れがあります。特に水やお茶のような液体は喉を通る速度が速いため、蓋が閉まる前に気管へ流れ込むリスクが高まります。誤嚥をすると、口腔内の細菌が食材と一緒に肺へ運ばれることが、炎症を引き起こす主な要因といえるでしょう。咀嚼が不十分なまま急いで飲み込もうとする行為も、嚥下リズムを乱す原因となり得ます。食事の形態を工夫し、飲み込みの速度に合わせた配慮を心がけましょう。
誤嚥性肺炎になりやすい人の特徴はありますか?
加齢により飲み込む力が低下した方や、静養中で体力が低下している方に多く見受けられます。脳血管疾患の後遺症などで喉の感覚が鈍くなっている場合も、誤嚥への配慮が必要です。認知症の方は食べる動作に集中しきれなかったり、一度にまとまった量をお口に運んだりすることで、誤嚥を招く恐れがあります。また、糖尿病による代謝機能の低下や抗がん剤治療の影響などで免疫力が落ちている方は、少量の細菌の誤嚥でも肺炎を併発しやすいので注意が必要です。薬の副作用で唾液が減り、口腔内が乾燥している方も、口腔内の細菌が繁殖しやすい環境にあるため注意しましょう。
誤嚥性肺炎を防ぐための食事と介助の工夫

どのような食事形態が誤嚥を防ぎやすいですか?
誤嚥を防ぐには、適度な粘り気があり、お口のなかで一つにまとまりやすい質感が適しています。食材を細かく刻むだけではバラバラになりやすく、喉に残って誤嚥を招く恐れがあるため、とろみ剤などを活用して調整しましょう。ゼリー状やムース状の食べ物は、形が崩れにくく滑らかに喉を通るため、飲み込む力が弱まった方でもスムーズに嚥下がしやすくなります。パサつきやすいパンや、水分を吸う高野豆腐などは避け、しっとりと仕上げる調理法が適しています。食材の硬さは、歯を使わなくても舌で優しく押し潰せる程度を目安にするとよいでしょう。個人の咀嚼や嚥下の能力に合わせて調理法を選びましょう。
飲み込みやすい食べ方や水分摂取など、食事の工夫を教えてください
水分を摂る際はとろみ剤を使い、液体が喉へ流れる速度を和らげるのが有効です。お茶や汁物をポタージュのような濃度に整えると、喉の蓋が閉まる動きに合わせやすくなり、誤嚥のリスクを抑えやすくなります。一口ごとに、何も含まない状態で飲み込む空嚥下を行うと、喉に残った物を送り出す助けになるでしょう。また、固形物と水分を交互に摂る交互嚥下は、喉の残留物を流すのに役立ちます。酸味のある味付けを少量取り入れると、酸の刺激によって唾液の分泌が促されます。これにより、食べ物をまとめやすくなるだけでなく、嚥下反射が起こりやすくなる効果が期待できるでしょう。
食事の量やペース、の調整方法を教えてください
一口の量はティースプーン一杯分くらいを目安とし、口腔内が食べ物であふれないように配慮します。お口のなかにある物を完全に飲み込んだことを確認してから次を運ぶ、丁寧な介助が誤嚥の防止に有効です。食事時間は30〜45分程度を目安にし、疲れによる集中の途切れや、筋力の消耗を避けましょう。長時間の食事は喉の周りの筋肉が疲れやすくなり、誤嚥のリスクが高まる可能性があります。本人の咀嚼や嚥下の速度に合わせて、次の配膳を待つゆとりを持つことが大切です。一回に食べる量が少ない場合は、食事回数を分けて栄養を補いましょう。
食事介助や見守りのコツはありますか?
介助者は本人と同じか少し低い目線で接するようにしましょう。介助者が上からスプーンを差し出すと本人の顎が上がり、気管が開いて誤嚥を招く恐れがあるからです。テレビなどの音を抑え、食事に集中できる環境を整えることが大切です。一口ごとに喉の動きを観察し、嚥下後の声の変化にも意識を向けましょう。ロゴロとした湿った声は、喉に異物が残っている一つのサインと考えられます。異変を感じた際は無理に食事を進めず、背中をさするなどして慎重に様子を確認しましょう。
食事の際の姿勢はどのように保つとよいですか?
椅子に深く座り、足裏を床に着けて身体を安定させます。顎を引く姿勢は気管を狭め、食道への通路を広げるため誤嚥防止に有効です。車椅子では背中にクッションを添えるなどして、軽く前傾姿勢を保つようにしましょう。ベッドの場合はリクライニングを30〜60度ほどに上げ、枕で首を支えて正面を向くように調整します。片麻痺がある方の場合は、健康な側(健側)を少し下にするなど、状況に合わせて角度を調整することが大切です。身体が左右に傾かないよう支え、飲み込みやすい状況を整えることが大切です。
食後はどのくらいの時間、座位を保つとよいのでしょうか
食後はすぐに横にならず、2時間ほどは上半身を起こして過ごすことが推奨されます。就寝を急ぐと胃の内容物が食道へ逆流し、気管に入って肺炎を招く恐れがあるからです。座位の保持は、重力を利用して食物を胃へと送り出す助けになるでしょう。座るのが困難な場合は、背もたれやクッションを活用し、上体を高く保つようにしましょう。この時間に口腔ケアや会話を行い、意識をはっきりさせるのも有効です。胃内容物の逆流による誤嚥を未然に防ぐ習慣を整えましょう。