単発では違法になりにくいが、「繰り返し」で評価は変わる
もちろん、ウインクをしただけで直ちに犯罪になるわけではありません。刑法で罰するには暴行や脅迫、不同意わいせつなど、一定の法益侵害が必要になります。つまり、「気持ち悪いと感じられた」というだけでは、通常は直ちに犯罪にはなりません。ここで重要なのは「反復性」、つまり繰り返しです。
例えばストーカー規制法では、待ち伏せや見張り、進路への立ちふさがり、拒絶後の接触などを繰り返すことで、違法かどうかの評価が変わっていきます。
実務上も、「単発か継続しているか」「相手が拒絶しているか」「恐怖や萎縮を与えているか」によって評価は大きく変わります。つまり、「まだ犯罪じゃないから問題ない」「1回だけだからセーフ」という単純な話ではなく、「違法かどうか」がはっきりする前の段階でも、相手に強い不安を与える行為は、警察や行政の警戒対象として位置づけられているのです。
特に現在は、ストーカーや性犯罪への対応が、「被害が深刻化してから」では遅いという考え方が主流で、以前のように「警察は事件が起きてからしか動かない」という発想ではなく、“前兆段階”から情報共有や警戒を行う方向へ変わってきています。
そのため実務では、「本人に悪気があったか」「本当に犯罪目的だったか」ということで判断されるのではなく、「相手が恐怖を感じたか」「行為に不自然さがあるか」「今後エスカレートする可能性があるか」という視点が重視されます。
今回の“ウインク”の件でも、「1回だけだから問題ない」と考える人がいる一方で、「深夜に、見知らぬ女子高生へ、わざわざウインクをする必要があるのか」という根本的な違和感を持つ人も少なくありません。今の社会は、こうした「小さな違和感」を軽視しない方向へ変わってきていると言えます。
職場では「違法」より「就業環境」が重視される
さらに分かりにくいのが、職場でのハラスメントです。厚生労働省のハラスメント指針では、企業に対し、「ハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応すること」を求めています。つまり企業側は、明確にアウト/完全に問題なしという単純な線引きではなく、その中間にある“グレーゾーン”にも対応を求められているわけです。
背景にあるのは、「明確に違法ではないから放置する」という対応では、職場環境の悪化やトラブルの深刻化を防げない、という考え方です。ここで重視されるのは、「違法かどうか」より、「就業環境が害されるか」です。
厚労省の資料でも、パワハラやセクハラは「労働者の就業環境が害されるもの」と整理されています。
そのため、不機嫌な態度や舌打ち、無視、威圧的な沈黙、執拗な視線、距離感の近さなども、継続性や上下関係によっては相談対象になります。
最近では、いわゆる「フキハラ(不機嫌ハラスメント)」という言葉も広がっています。怒鳴っていなくても、周囲を萎縮させたり、話しかけにくい空気を作ったりするなど、職場全体の雰囲気を悪化させることで、組織運営上の問題として扱われるようになっています。
特に管理職では、「怒鳴っていないから問題ない」では済まされず、“態度そのもの”が評価対象になるケースもあるのです。
