寝たきりの家族を介護するうえで、口腔ケアは欠かせないケアのひとつです。
しかし、どのような手順で行えばよいのか、誤嚥させてしまわないかと不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
寝たきりの方は口腔内の自浄作用が低下しやすく、適切なケアを怠ると誤嚥性肺炎などの深刻なリスクにつながるので注意が必要です。
本記事では、寝たきりの方への口腔ケアの手順や姿勢、注意点を解説します。

監修医師:
高山 哲朗(かなまち慈優クリニック)
理事長 高山 哲朗
平成14年慶應義塾大学卒業
慶應義塾大学病院、北里研究所病院、埼玉社会保険病院等を経て、
平成29年 かなまち慈優クリニック院長
【所属協会・資格】
医学博士
日本内科学会総合内科専門医
日本消化器病学会専門医
日本消化器内視鏡学会専門医
日本医師会認定産業医
東海大学医学部客員准教授
予測医学研究所所長
寝たきりの家族への口腔ケアについて

寝たきりの場合の口腔内はどのような状況だと考えられますか?
寝たきりの状態が続くと、会話や食事の機会が減り、お口を動かす頻度が低下します。唾液の分泌量が減ることで口腔内の自浄作用が弱まり、細菌が繁殖しやすい状態です。寝たきりの状態が続く高齢の方々の口腔内では以下のような変化が見られるとされています。
舌に白黄色の舌苔(ぜったい)が付着する
歯垢(プラーク)が増える
歯肉が腫れる
麻痺のある側に食べかすがたまる
お口が開いたままの状態が続く
口腔内が乾燥する
入れ歯に汚れが堆積する
細菌の温床となる
こうした口腔内の悪化は口臭の原因になるだけでなく、誤嚥性肺炎や心内膜炎など全身に影響する疾患のリスクにも直結するため、注意が必要です。
寝たきりで口腔ケアが難しい場合でも口腔ケアは必要ですか?
口腔ケアが難しい状況であっても、むしろ積極的に行うことが重要です。口腔内には誤嚥性肺炎の起炎菌が存在しています。嚥下機能や咳反射が低下した寝たきりの方では、これらの起炎菌が気道に入り込みやすくなります。その結果、肺炎を起こすリスクが高まるため注意が必要です。実際に要介護の高齢の方々に対して高度な口腔ケアを実施した研究では、肺炎の発症率が有意に低下したことが報告されています。口腔内を清潔に保つことは、誤嚥性肺炎の予防だけでなく全身の健康維持にもつながる大切なケアといえるでしょう。
食事を経口摂取していなくても口腔ケアは必要ですか?
経口摂取をしていない方にも口腔ケアは必要です。食事をしていなくても、口腔内では細菌が繁殖し続けます。経管栄養や点滴のみで管理されている方は唾液の分泌がさらに減少するため、口腔内が乾燥しやすい状態です。乾燥した口腔内では痰や剥離上皮が粘膜にこびりつきやすく、衛生状態の悪化が進みます。経口摂取の有無に関わらず口腔内の細菌は増殖するため、継続的な口腔ケアが欠かせません。
寝たきりの方への口腔ケアの方法

寝たきりの家族への口腔ケアの手順を教えてください。
口腔ケアの手順は、うがいができるかどうかによって大きく異なります。国立長寿医療研究センターでは、嚥下機能に応じた2つの方法を提唱しています。うがいができる場合は、全体で約5分を目安に行いましょう。まず、スポンジブラシを水で薄めたうがい薬に浸してよく絞り、口腔内全体を拭って食べかすや歯垢をおおまかに取り除きます(約1分)。次に、うがい薬をつけた歯ブラシで歯を磨き(約2分30秒)、軟らかい歯ブラシで舌の奥から手前へ10回程度拭いて舌苔を除去します(約30秒)。最後にうがい薬で数回うがいをして完了です(約1分)。一方、うがいができない、または誤嚥リスクが高い場合を紹介します。誤嚥リスクが高い方には水の代わりに口腔ケア用ジェルを使用することで、誤嚥リスクを大幅に軽減できます。まず、固く絞ったガーゼで口唇周囲を清拭して口腔外の細菌を持ち込まないようにし、口唇にジェルを塗布して乾燥を防ぎましょう。続いて口角鉤(こうかくこう)で視野を確保したうえで、ジェルを口腔内全体に塗布して乾燥した汚染物をやわらかくするのが重要なポイントです。その後、吸引嘴管(きゅういんしかん)で除去できる汚染物を先に吸引してから、ジェルをつけた歯ブラシで歯を磨きながら汚染物を吸引します。歯間ブラシで歯間を清掃し、粘膜用の軟毛ブラシで舌の汚染物も取り除きます。最後にスポンジブラシで口腔内全体を拭い、ジェルを薄く塗布して保湿し、水を絞ったガーゼで口唇周囲を清拭して完了です。
寝たきりの家族の口腔ケアを行う際はどのような姿勢がよいですか?
誤嚥を防ぐために、姿勢の工夫が欠かせません。ベッド上でケアを行う場合は、座った状態が理想ですが、それが難しい場合は横向きの側臥位が安全性が高いでしょう。片麻痺がある場合は麻痺のない側を下にした横向きの姿勢で行います。麻痺のある側に食べかすがたまりやすいため、ケア後にその側を重点的に確認することも大切です。ケア後はすぐに仰向けに戻さず、しばらく同じ姿勢を保つよう心がけましょう。頭部をやや横向きにすることで、ケア中の水分や汚れが喉に流入しにくくなります。
口腔ケアは1日に何回必要ですか?
国立長寿医療研究センターは1日1回5分のケアを基本として推奨しています。毎食後のケアが理想ですが、介護者の負担を考慮すると就寝前の1回をよりしっかりと行うことが特に重要です。就寝中は唾液の分泌が減少し、細菌が繁殖しやすい状態となります。そのため就寝前に口腔内を清潔にしておくことが、誤嚥性肺炎の予防に効果的です。1日複数回が難しい場合でも、まずは就寝前の1回の習慣化から始めましょう。
活用できる口腔ケア用品があれば教えてください
寝たきりの方の口腔ケアには、以下の用品が役立ちます。
スポンジブラシ
軟毛歯ブラシ
口腔ケア用ジェル
電動歯ブラシ
吸引嘴管
口角鉤
ブラシは、口腔粘膜の拭い取りや保湿に使うスポンジタイプと、歯や舌の清掃で使用する軟毛歯ブラシを用意しましょう。口腔ケア用ジェルは乾燥した口腔内の保湿やこびりついた汚れの軟化に役立ちます。誤嚥リスクが高い方のケアには、汚染物を吸引して排出する吸引嘴管と、口腔内の視野を広げる口角鉤も重要な用品です。誤嚥リスクが高い方向けには吸引機能つきの歯ブラシも市販されており、積極的な活用が望まれます。対象者の状態に合わせた用品を選ぶことが、ケアの効率と安全性を高めるポイントです。

