俳優であり、小学生の娘さんがいるママでもある我妻三輪子さん。不思議の国のアリスで有名な「Happy Unbirthday」(なんでもない日おめでとう!)という言葉が大好きな我妻さんが、何気ない日でも愛おしく感じる出来事や気づきを写真とともに綴っていきます。
失敗は成功のもと
こぼした味噌汁を拭きながら、黄色い金平糖のような声で娘は言う。「しっぱいはせいこうのもと!」
それは、最近覚えた言葉。きっと小学校で教えていただいたのでしょう。使い古された言葉だけど、娘の口から唱えられると新鮮で、魔法のようだ。

娘は転んでもすぐ立ち上がる。転んでみて初めて、立ち上がり方を知るし、どこが滑る場所なのかを知る。元々知っていた言葉を、改めて娘が体現してわたしに教え直してくれた。
今日も、苦手な算数の勉強をしながら、澄んだ目で娘が言う。「失敗は成功のもと」…無駄なことなんてきっとない、と。それを聞いて私は、まっじで失敗したくねぇ〜〜〜と思う。まじで無理。絶対いや。無駄なことはまじであるし、失敗しないならその方が絶対良い。転ぶのは痛い。痛いのはいやだ。悲しい。いやだ、いやだ、いやだぁ〜!!

娘に憧れる私
子どもが出来ても変わらない箇所は変わらない。35年かけて作られた地層は分厚い。私は失敗を恐れるがゆえ、挑戦が苦手で、人生で育児以外に努力をした事も、魂を燃やした事もない。
姉が聞いていたから椎名林檎を聞き、親友が読んでいたから太宰治を読んだほど、主体性もない。
はなから諦めてしまい、ビクビクして、頑張っている人を羨み、受け身で卑屈な人生だ。なのに彼女は…。
今日も走ってすっ転んで、すっくと立ち上がり、分からないと泣きながら、算数ドリルに励む。みんなが見ているYouTubeを見たいと言わず、危険生物の図鑑を読み、誕生日プレゼントには人気のゲーム機よりも、キックボードを選び、ランドセルの色は、女の子では学年でひとりだけの黒だ。それらを気にしているそぶりは、今のところない。
5月のカラッと晴れた日に青々と輝く芝生のような子である。6月のジメジメとした日に日陰の端で生えた苔のような私には、美しすぎて眩しすぎる。

子育てをする事には、自分の人生を生き直している感覚がある。追体験とも似ていて、彼女と過ごしていると、自分の中身が浮き彫りになっていく。ドンデコルテの漫才「デジタルデトックス」の渡辺銀次さんと同じく、私は自分と向き合いたくないし、目覚めたくないのに、だ。私が産み、育てたのに、私と彼女は別の人間で、私は彼女に憧れている。
不思議な話だ。ある種、コメディでもあり、ホラーでもある。


