「客先で本来のパフォーマンスが出せない」と依頼
平岡さんのもとには、様々な相談が舞い込みます。営業職に励むある男性は、片手を失っていたことで「どれほど仕事へ一生懸命になっても、客先へ行くと手元を見て『大丈夫?』と言われてしまう。そこにばかり相手の意識が向くので、本来のパフォーマンスを出せずに困っているんです」と、切実に訴えてきたといいます。また、装飾義肢の相談には、季節による波もあるそう。6月のブライダルシーズン、人と会う機会が増える年末年始には、問い合わせが増えると平岡さんはいいます。
「みなさん『早く準備しなければ』と思っていても、日々の生活が忙しくてギリギリまで動けないんです。結婚式を控える新婦の方が、『ウエディングドレス姿がきれいに見える腕を作ってほしい』と相談してくださったこともあります」
乳がんで乳房を切除したお客さんからは、友だちと温泉へ行くために「乳首を作ってほしい」という相談も。本人だけではなく、何らかの理由で家族や友人が身体の一部を失ってしまい「本人がふさぎ込んでいるので、助けてあげてほしい」という声もあるそうです。
家族と本人の思いがすれ違うケースも
そして、ときには家族と本人の思いがすれ違うこともあります。先天的に指のなかった子どものために「装飾義肢を作ってほしい」という親御さんからの相談を受けた当時を、平岡さんは振り返ります。「小学生の子でした。お母さんは『どうしても作りたい』と言っていたんです。でも、いざ型取りをしようとしたら、その子がすごく不満そうで。どうしたのと聞いたら、泣きながら『僕はいらない』と僕だけにこっそり訴えてきました」
本人は「友だちと上手に過ごしているし、恥ずかしいと思ったこともない」と打ち明けてきたといいます。平岡さんは、親御さんに対して「本人は楽しくやっているようですし、必要になったまた来てください」と送り出しました。
「お母さんはきっと、我が子のためにと思っていたんでしょう。ただ、本人はお母さんに心配をかけたくない。どちらも優しさだったはずですし、愛情の行き違いだったのかなと思いました」

