報道やSNSで見られるハンタウイルスの「2つの誤解」
編集部
今回のハンタウイルスに関する一連の報道やSNSの反応を見ていて、専門家の視点から「特に世間に誤解されている」と感じるポイントはありますか?
山田先生
一番大きな誤解は、「人から人にうつる」という言葉が独り歩きしている点ではないでしょうか。まるで新型コロナウイルスのように「街中で次々と感染が広がっていくのではないか」という恐怖感をあおるような表現もSNSでは見られています。確かに今回のアンデスウイルスは、数あるハンタウイルスのなかで唯一、人から人へ感染するという特殊な性質を持っています。しかし感染の広がり方は、新型コロナやインフルエンザなどとは異なります。
編集部
そのほかにも誤解されていると感じる点は何かありますか?
山田先生
致死率の高さとパンデミックの起こりやすさを結びつけて考えてしまう点です。致死率が高いウイルスと聞くと、社会全体を脅かす大流行を起こすのではないかと考えてしまいがちです。しかし公衆衛生の視点ではむしろ逆のことがいえます。
ウイルスの重症化のスピードが早いと、感染した人は短時間で動けないほど体調が悪化してしまいます。そのため、軽症の人が元気に通勤や通学をして無自覚にウイルスを広めるといった、パンデミックを成立させるための連鎖が構造的に起きにくくなります。
このような視点から、致死率の高さとパンデミックの起こりやすさは別問題として考えるべきです。
「断片的な情報」で判断はNG。感染症情報との正しい向き合い方
編集部
ネットやSNSでは、刺激的で不安をあおる情報ほど拡散されやすい傾向があります。私たちが日常で感染症のニュースを見る際、流されないためにどのような点に注意すべきでしょうか?
山田先生
SNSなどで不安をあおるような断片的な情報が拡散されているのを見かけたら、まずは一呼吸置いて、その病気はどこで流行しているのか、どのようなルートでうつるのか、今の自分の生活環境でそのリスクに直面する可能性がどれくらいあるのかといった全体像を見るようにしましょう。SNSでは偏った情報ばかりが拡散されやすいということを認識しておくだけでも見方は変わってくるのではないでしょうか。WHOや各国の保健当局といった公的な専門機関が発信する解説や分析を待つ姿勢が大切です。
編集部
信頼できる情報源として厚生労働省や国立感染症研究所など日本の公的機関のサイトを見る際、一般の読者はどのような部分を参考にするとよいのでしょうか?
山田先生
公的機関のウェブサイトは情報の正確性が担保されている一方、専門用語が多くてどこを読めばいいのか迷ってしまうことも多いと思います。そこで一般の読者の方にお勧めしたいのは、トップページから一歩進んだところにある「Q&A」や「一般の方向け」と書かれたページを探すことです。ここには、専門家が一般の人にこれだけは知っておいてほしいと考えるエッセンスが、分かりやすい言葉でかみ砕かれてまとまっています。
編集部
今後もまた、新たな感染症がニュースで話題になることがあると思います。私たちは普段から、感染症の情報とどのように付き合っていくべきか、アドバイスをお願いします。
山田先生
グローバル化や気候変動の影響もあり、未知の感染症が突然ニュースに現れることは、これから先も避けられません。そのたびにSNSやメディアが騒ぎ立て、私たちの不安をあおるような状況は何度も繰り返されるでしょう。だからこそ「速報性」に振り回されず、「確実性・信頼性」を待つ心の余白を持つことが大切です。
新しい感染症の第一報が出た瞬間は、専門家や公的機関でさえもそのウイルスの全貌を完全には把握していません。それなのに、ネット上では断片的な情報や極端な予測ばかりが、根拠のない断定的な形で先行して拡散されてしまいます。
情報に触れてパニックになりそうなときこそ、まずは一呼吸置いて、科学的根拠(エビデンス)に基づいた確かな分析が出揃うまで静観することで、不要な不安に心をすり減らさずに済むのではないでしょうか。

