脳トレ四択クイズ | Merkystyle
妻の貞操と老眼のバカっ!|佐藤友美

妻の貞操と老眼のバカっ!|佐藤友美

老眼に感謝、とまでは言わないけれど

さて。

老眼になると、なにがしんどいって、本を読むのがしんどい。

紙の本を買ったのに、夜だととても読めたものじゃないから、電子書籍で買い直すことが何度も続いた。しかし、電子書籍で読むにしてもブルーライトで目が疲れる。どんどん読書から遠ざかる。

私は出版業界の端っこで仕事をしている。書評の連載もある。本が好きで、本を読むことが仕事になるなんて、なんて素敵な人生だろうと思っていた。
そんな私の人生に、本を読むのが億劫になる未来がやってくるなんて、思ってもいなかった。
ふえーん。老眼のバカっ!

そんな折。勧められたのが、オーディブルだ。
最近ラインナップが急増し、新刊の小説も人気作品はだいたいオーディブルの朗読で聞ける。

仕事柄、紙の本と書店を崇めて生きてきた。
電子書籍ではなく、紙の本がいい。紙の本は書店で買い本屋を応援すべきだという思想のもとに育った私にとって、オーディブルで書籍を読む(聞く)というのは、なんだかイケナイことをしているようで、後ろめたさがある。

でも、あるとき友人から言われた。

「電子書籍だろうが、オーディブルだろうが、本を読まないことに比べたら、全然よくない?」

この言葉で、呪いがとけた。ほんと、その通りだよ!! 読まないよりは読んだ(聞いた)ほうが全然よいよ! ぽろりんちょ(呪いがとけた音)。

というわけで、いまや、毎日数時間はオーディブルを聞いている。
移動中、掃除中、料理中。だいたい1.5倍速で聞く。

ビジネス書など、本に付箋を立てながら読みたい文章は、オーディブルには向かないことがわかった。内容について深く考え、自分のペースでいったりきたりしたいタイプの本も向かない。
私の場合は、オーディブルはもっぱら小説を読む(聞く)ことに使っている。

ここ数年、だいぶ小説から遠ざかっていたけれど、オーディブルに出会って、またたくさん読めるようになってきた。この2年ほどで100冊以上は読んだ(聞いた)だろうか。

オーディブルで聞いたあと、書評を書きたいと思った本はもう一度電子書籍や紙の書籍で買い直す。心に残ったフレーズをもう一度探して書き出す時間は、これまでになかった楽しい時間だ。

これまで読んだ(聞いた)本の中で、とくに"オーディブル甲斐"があったのは、『目の見えない白鳥さんとアートを見に行く』だ。耳で絵画を鑑賞することは、白鳥さんの環境に近いのだと気づく得難い経験だった。

歌舞伎役者の尾上菊之助さんが朗読する『国宝』もよかったし、群像劇なのに全員のキャラが演じ分けられている『俺たちの箱根駅伝』や『大名倒産』なども素晴らしい朗読だった。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(とにかく長い)や『同志少女よ、敵を撃て』(ロシア人の名前は難しい!)は、多分「読んで」いたら途中で離脱していたと思う。

棟方志功の人生を描いた『板上に咲く』は、渡辺えりさんの青森弁での朗読が素晴らしかった。『文化の脱走兵』は、内容にマッチした朗読が優しすぎて素晴らしすぎて3回もリピートした。
ここ数年の本屋大賞のノミネート作品も、オーディブルでガシガシ聞いている。

おそらく、老眼がここまで進行しなければ、オーディブル生活にはならなかったと思うし、オーディブル生活にならなかったら、こんなにたくさんの小説に触れることもなかったと思う。

そう、最近めっきり遠ざかっていた村上春樹さんの作品も、多彩な俳優陣の朗読だからこそ、出会い直せている。

歳をとるのも、悪くない。

と、悦に入っていたときに、事件は起こった(冒頭に戻る)。

いやん。老眼のバカーーっ!

配信元: 幻冬舎plus

提供元

プロフィール画像

幻冬舎plus

自分サイズが見つかる進化系ライフマガジン。作家・著名人が執筆するコラム連載、インタビュー、対談を毎日無料公開中! さまざまな生き方、価値観を少しでも多く伝えることで、それぞれの“自分サイズ”を考え、見つける助けになることを目指しています。併設のストアでは幻冬舎の電子書籍がすぐに立ち読み・購入できます。ここでしか買えないサイン本やグッズ、イベントチケットも。