ある日、父から突然電話がかかってきました。「お母さんが救急搬送されたって、病院から電話があったんや。大事はないみたいやけど、家族が迎えに行かなあかんらしくてな。今から行けるか?」。母は当時62歳。近所のコンビニへ自転車で買い物に行くことがあり、私にとってはそれほど珍しいことではありませんでした。けれど、その一本の電話をきっかけに、母の生活は少しずつ変わっていきました。
自転車で転倒し、救急搬送された母
母はもともと物を大切に使う人でした。日用品や衣類も長く使い、自転車も10年ほど乗り続けていました。近所のコンビニへ行くときも、その自転車を使っていました。
40代のころから、母はうつ病と診断され、心療内科に通っていました。一時期はつらそうな時期もありましたが、50代後半からは落ち着いてきたように見えました。薬で精神面をうまくコントロールできているようで、穏やかに過ごす時間が増えていました。
病院へ迎えに行くと、母は救急外来の窓口から案内された後、通常の受付近くのソファに座っていました。そして、私を見るなり、申し訳なさそうに笑いました。
「ごめんね。自転車で転んじゃって。たまたま警察の人が通りかかって、救急搬送しないわけにはいかないからって。何度も大丈夫って伝えたんだけど」
幸い、母は擦り傷だけで済みました。大きなけがではなかったことに、まずはほっとしました。
「もう自転車には乗らないで」家族が感じた不安
ただ、父にとってはかなり怖い出来事だったようです。母には糖尿病があり、白内障や緑内障も進んでいて、以前より見えにくくなっていました。擦り傷だけで済んだとはいえ、もし転び方が悪かったら、もし車通りの多い場所だったら……そう考えると、家族として不安にならずにはいられませんでした。
その後、母の自転車は廃棄されました。父も、母に「もう乗らないように」と何度も念を押していました。それから、母がひとりでコンビニへ行く機会は極端に減りました。自転車がなくなったことで、今まで気軽に行けていた場所が、母にとって少し遠い場所になってしまったのだと思います。

