2型糖尿病の治療薬「マンジャロ(チルゼパチド)」を本来と異なる目的で使用するケースが急増しています。SNS上では「痩せ薬」として個人間売買が横行し、2026年6月2日には、許可なく販売したなどとして男女3人が大阪府警に書類送検されました。また5日には上野厚生労働大臣が「ネットパトロールを強化する」と表明し、適正な使用を呼びかける事態となっています。社会問題化するマンジャロは本来、どのような病気に使う薬なのでしょうか。作用の仕組みや効能・効果、副作用とリスク、処方を受けられる医療機関について、日本糖尿病協会登録医の五藤良将先生に解説してもらいました。

監修医師:
五藤 良将(医師)
防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。
マンジャロ(GLP-1受容体作動薬)はどんな薬?
編集部
はじめに、マンジャロはどのような薬なのか教えてください。
五藤先生
マンジャロは2型糖尿病の治療薬として承認されている注射薬で、有効成分はチルゼパチドです。日本では2022年9月に承認され、2023年4月に発売されました。正確にはGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)とGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)という2つのホルモンの受容体に働きかけるタイプの薬(持続性GIP/GLP-1受容体作動薬)に分類されます。糖尿病は血液中のブドウ糖(血糖)が増えてしまう病気です。なかでも2型糖尿病は、血糖値を下げるホルモン「インスリン」の分泌が低下する、または生活習慣や肥満などによってインスリンが効きにくくなることで起こります。
編集部
どのような作用で2型糖尿病に効くのですか?
五藤先生
GLP-1とGIPは、食事をとると主に小腸から分泌される「インクレチン」と呼ばれるホルモンです。血糖値が高いときに膵臓へ働きかけ、血糖値を下げるホルモン「インスリン」の分泌を促します。体内でつくられるインクレチンは数分で分解されてしまいますが、マンジャロの成分は分解されにくく、長く作用するように設計されています。マンジャロは週1回の注射で、このインクレチンの働きを補う薬です。大きな特徴は「血糖値が高いときにだけしっかり働く」という点です。血糖値に応じてインスリンの分泌を促すと同時に、血糖値を上げるホルモン「グルカゴン」が過剰に出るのを抑えることで、血糖値をコントロールします。
血糖値が高くないときにはインスリンを無理に分泌させないため、血糖値が下がりすぎにくいのも特徴です。さらに、胃の動きを緩やかにして食べ物の吸収をゆるやかにしたり、脳に働きかけて食欲を抑えたりする作用もあります。
編集部
インスリン注射とは何が違うのでしょうか?
五藤先生
インスリン注射との大きな違いは、副作用である「低血糖の起こりやすさ」です。低血糖は重症化すると意識障害や死亡にもつながる重篤な副作用ですが、マンジャロは血糖値が高いときのみ作用するため、単独で使用する場合は低血糖が起こりにくいとされています。ただし、低血糖がまったく起こらないわけではありません。特にほかの糖尿病治療薬と併用する場合は危険な低血糖を起こす可能性があるため注意が必要です。
マンジャロの「正しい使い方」と保険適用の対象
編集部
2型糖尿病患者さんに対して、保険適用下でのマンジャロはどのように使う薬ですか?
五藤先生
週1回、同じ曜日に皮下注射します。「アテオス」という1回使い切りの注入器を使用し、注入ボタンを押すと針が自動的に刺さって薬液が注入されるため、患者さん自身が針を扱ったり、用量を設定したりする必要はありません。用量は2.5~15mgまで6規格あり、通常は週1回2.5mgから開始して、4週間後に維持用量の5mgに増量します。効果が不十分な場合は、状態を確認しながら4週間以上の間隔で2.5mgずつ、最大で週1回15mgまで増量できます。
編集部
2型糖尿病には、どのくらいの期間使い続けると効果が出るのでしょうか?
五藤先生
治療効果が十分で副作用が問題にならなければ、期間の上限はなく長期的に継続して使用できます。継続できるかどうかは、使い始めてから数週間〜数カ月の間で判断します。その間、必要に応じて薬の量を調節しながら、治療効果や副作用を観察します。薬と身体との相性には大きな個人差があるため、こうした調節は必ず医師の管理の下で行います。
編集部
マンジャロは保険適用の薬ですか?
五藤先生
保険適用で使用できるのは、添付文書に記載された効能・効果(適応)に該当する場合のみです。マンジャロの効能・効果は「2型糖尿病」のみですので、2型糖尿病と診断された患者さんの治療に使う場合に限られます。ダイエット(痩身)を目的とした使用は適応外使用(承認された効能・効果以外の目的での使用)にあたり、安全性や有効性は確認されていません。
編集部
どのような医療機関で処方を受けられるのでしょうか?
五藤先生
マンジャロは医師の処方箋が必要な「医療用医薬品」です。糖尿病内科や内分泌内科など糖尿病の診療を行う医療機関で、診察や血液検査に基づいて処方されます。処方後も、効果や副作用を確認するために定期的な通院が必要です。診察や検査なしでの販売をうたうSNS上の個人やインターネットサイトは、正規の入手経路ではありません。

