数か月後、博嗣は献身的な夫へと激変。紀子の監視はつづくが、優菜は夫の変容を「愛」だと信じ、しあわせをかみしめる。紀子は真実をかくしつづけることにまようが、佐代子の言葉にすくわれ、秘密を墓場まで持っていく覚悟を決める。
しあわせそうな親友
博嗣さんとの対決から、数か月がたった。
優菜のおなかはさらに大きくなり、もうすぐ臨月を迎える。あれから、博嗣さんの様子は劇的に変わったようだ。
「ねえ紀子、聞いて。最近、博嗣さんが定時で帰ってくるようになったの!お料理も勉強してくれて…私がうごけない時に、パパッとつくってくれるんだよ」
優菜からの電話は、いつもしあわせな報告であふれていた。博嗣さんは本当に、心を入れ替えたのかもしれない。
飲み会もパタリとやめ、週末は優菜と一緒にベビー用品を買いに行ったり、ウォーキングに付き合ったりしているそうだ。
「私、しあわせものだよね。あんなにステキな人と結婚できて…」
受話器越しの彼女の声は、かつてないほどはずんでいた。
証拠の出番がなく、安堵の日々
私は、時々アプリをチェックしている。
もちろん、あたらしいアカウントをつくって、彼が潜んでいないかを監視するために。 でも、彼は一度ももどってきていないようだ。
(「証拠」の出番は、今のところなさそうね)
そんなある日、佐代子さんとお茶をした。
「博嗣さん、本当に更生したみたいね。紀子ちゃんのあの時の迫力、すごかったもの」
「…これでよかったんですよね、佐代子さん。本当のことを言うのが友情なのか…だまっているのが友情なのか、ずっとまよっていました」
佐代子さんは私の手をそっと握った。
「正解なんてないよ。でも、今の優菜ちゃんの笑顔を守っているのは、まちがいなく紀子ちゃんの"黙る勇気"だよ。真実をつたえることが、常に最善とは限らない。特に、相手がいちばん守りたいものを守るためにはね…」
その言葉に、少しだけすくわれた気がした。

