「車で近くまで来てるんだけど、今から行っていい?」
生後1か月にも満たない赤ちゃんを連れて、アポなしでわが家に来ようとしたのです。あの時は、さすがに焦りました。家の中は慎吾のオモチャで散らかってるし、私自身も体調が悪くてボロボロだったので。
結局、その時は「ごめん、今日は無理」と断って帰ってもらいましたが、彼女は「えー!せっかく近くまで来たのに寂しい!」と不満げなスタンプを連打してきました。
そして今、私たちは2週間後に彼女の家へ出産祝いに行く約束をしています。本来なら楽しみなはずなのに。赤ちゃんに会いたい気持ちはあるはずなのに。
今の私にとって、彼女とのやり取りは、ただただ体力を削り取る「重荷」でしかありませんでした。
「お祝い、2週間後だよね。でも彼女、なんて言ってきたの?」
祥吾の問いに、私は重い指を動かして未読のメッセージを開きました。そこには、私の予想を超える「圧」が綴られていたのです。
アポなし訪問の友人…
沙織は、出産したばかり。まだ産後ハイが続いているのでしょう。毎日のようにメッセージが届くうえに、アポなし訪問されそうに。
一方、真理は妊娠3か月。まだ安定期に入っていないため、沙織には告げていませんでした。とはいえ、生後1か月に満たない赤ちゃんを連れて、突然、訪問されるのは気を遣うもの。このときは断りますが、沙織は真理に会いたくて仕方ないようです。
「ヒマだから会いに来て!」自分の都合ばかり
「平日でもいいから早く来て、だって。……無理だよ。慎吾の幼稚園の送り迎えもあるし、何より、自分の体が……」
私は吐き気をこらえるように、胸元を押さえました。妊娠3か月。まだ誰にも言っていない、不安定な時期。
おなかの中では新しい命が必死に育っているけれど、その代償として私の体力はマイナスまで削られています。立ち上がることすら億劫なのに、車を運転して、気を遣いながら友人宅を訪問するなんて、今の私には「エベレスト登頂」と同じくらい困難なミッションでした。
「返さなきゃ、とは思うんだけど。なんて断れば角が立たないかな……」
「正直に言えばいいじゃないか。『体調が悪いから、予定通りでお願い』って」
祥吾の意見はもっともです。でも、沙織は「えー、なんで?どっか悪いの?大丈夫?私、いいお医者さん知ってるよ!」と、善意という名のマシンガントークで深掘りしてくるのが目に見えています。彼女との過去を思い返すと、さらに心が沈みます。
それぞれ家庭があり、生活があります。突然、予定を前倒しにするのは難しいですね。まったく配慮がなく、距離感がおかしい沙織に、疲れてしまいます。
そしてとうとう、真理の体にも異変が…。明らかに、つわりだけではなく、沙織からの執拗なメッセージが届くたびに吐き気がし、ストレスが溜まっていきます。

