彼は何者だったのか?
やがて対応に来た駅員に引き渡され、若い男はそのまま連れていかれました。例の男性もまた事情を説明するためか、一緒にその場を離れていったそう。それ以上、何かを語ることもなく。
「静けさを取り戻した車内で、わたしは『そうか、あの男性は気づいていたんだ』とハッとしました。周囲の小さな変化も、危険の兆しも全部。だからこそ、あえて目立つように強い言い方で注意していたのかもしれない……そう思ったんです」
ですが同時に、別の考えも頭をよぎったといいます。
本当にそうだったのか? と。ただ苛立っていただけの人間が、たまたまその瞬間に気づいただけなのかもしれない。その真意は結局分からないままでした。
明奈さんは、いずれにしても勝手に迷惑な人だと決めつけていた自分が恥ずかしくなったそう。
「私はそっとつり革を握り直し『これからは、スマホばかり見ていないで、もっと周囲に意識を向けよう』と思いました。『ちゃんと周り見ろよ』というあの男性の言葉が、後からじわじわ胸に響いていくのを感じたんですよね」と微笑む明奈さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop

