進行前から腎機能の悪化に気づく「5つの方法」
定期的に「尿検査」「血液検査」を受ける
編集部
頼もしい反面、症状がなかなか出現せず、進行してから発見されるという怖さがあるのですね。そうならないために、腎臓の悪化にいち早く気づく方法を教えてください。
舛森先生
1つ目の方法は「尿検査」で、特に重視したいのが「尿中の微量アルブミン測定」という検査です。
腎機能が悪くなると尿が泡立つと聞いたことはありませんか? その原因はタンパク質です。悪くなり始めの初期段階で、タンパク質の一種である「アルブミン」という物質が尿に漏れ出ることが分かっています。この微量アルブミンを測定できればいち早く腎機能の低下に気づくことができます。しかし、残念ながら2026年現在も、保険適用でこの検査が受けられるのは原則として糖尿病患者さんのみです。
なお、世界の腎臓病ガイドライン(KDIGO 2024年版)でも、糖尿病の有無にかかわらず腎臓病のリスクがある人には「尿アルブミン測定」と「eGFR(推算糸球体濾過量)」を組み合わせて評価することが強く推奨されるようになりました。日本でも今後、検診での活用が広がっていく可能性があります。(出典:KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of CKD, Kidney International, 2024)
編集部
糖尿病以外の人が健康診断などで気づく方法はありますか?
舛森先生
はい、それが2つ目の方法、一般的な「血液検査と尿検査」です。尿検査に「尿蛋白」という項目がありますね。腎臓が悪くなるとタンパク質が漏れ出て、尿蛋白が陽性になります。それとほぼ同時に、血液検査で「尿素窒素(BUN)」と「クレアチニン(CRE)」という値が上昇してきます。これらは本来、健康な腎臓であれば尿から排泄できている物質です。しかし腎臓の機能が低下し始めると血液中に溜まり、数値が上昇し始めます。
もし病院で検査を受けるのが難しい場合は、市販の「尿試験紙」というキットを使えば、自分の尿に紙を浸すだけで尿蛋白や尿糖、尿への血の混じりなどを色の変化で確認できます。ただし結果はあくまで目安ですので、気になる結果が出た場合は必ず医療機関で確認してください。
むくみ、貧血、だるさ、かゆみ…体の「SOS」をキャッチ
編集部
検査以外で、体に表れるサインとして気づく方法はありますか?
舛森先生
3つ目の方法は「体のむくみ」です。腎臓の機能がだいたい90〜40%に低下してくると表れてきます。余分な水分が体外へ排泄できずに溜まることで、多くの場合は重力の影響により、体の低い位置にある足からむくんできます。
足がむくんでいるかどうかを簡単に見つける方法があります。足のすねの硬いところを親指の腹で10秒間グーッと押してください。パッと親指を離したときに、凹んだままなかなか戻ってこなければ、腎機能低下による足のむくみの可能性があります。腎機能は慢性的にゆっくり落ちた場合は元に戻りませんが、何らかの感染症や脱水などで急激に悪くなった場合は、適切な治療を受けることで改善することもあります。むくみに気づいたら早期に受診を検討してください。
編集部
4つ目の方法は何でしょうか?
舛森先生
4つ目は「貧血」です。腎機能が30%程度に低下すると、先述した血液を作るホルモン「エリスロポエチン」が出なくなり、貧血になります。
貧血の有無を見分ける簡単な方法が、鏡の前で「あっかんべえ」をすることです。貧血では、下まぶたをめくったすぐ下の赤い部分である「眼瞼結膜(がんかんけつまく)」が白くなります。赤いラインがなくなっていれば貧血の可能性が濃厚です。赤血球は全身に酸素を運ぶ役割があるので、貧血になって赤血球が足りなくなると全身が酸欠状態になります。体がだるくなったり、最近疲れやすいと感じたり、少し動いただけでも息苦しいなどの息切れの症状が出てきます。
編集部
理由がわかると、貧血で息切れがするメカニズムが腑に落ちます。では、5つ目の方法を教えてください。
舛森先生
5つ目は「全身倦怠感(だるさ)」で、腎機能が20%くらいに低下して初めて出る末期症状です。ここまで機能が落ちると、腎細胞の「助け合い」でもまったく補えなくなります。体に溜まった毒素を排泄できなくなる「尿毒症」状態になることで全身倦怠感が出現します。
さらに進行してしまうと表れる特徴的な症状は「体のかゆみ」です。老廃物が皮膚に溜まり、皮膚にある「オピオイド受容体」が刺激されて全身がかゆくなります。透析をしている人がかゆみを訴えることが多いのはこのためです。
また、水分を排泄できなくなり、肺に水が溜まると酸素と二酸化炭素がうまく交換されず、息苦しくなります。お腹に水が溜まると小腸や大腸がむくんで栄養が吸収できなくなり、食欲低下や体重減少も起こります。こうなる前に、なんとか異常に気づきたいところです。
【知っておきたい情報】腎機能悪化を食い止める薬の新たな開発
「腎機能を元に戻す薬はない」とお話ししましたが、近年、もともとは糖尿病の薬として開発された「SGLT2阻害薬」(ダパグリフロジン、エンパグリフロジンなど。いずれも慢性腎臓病への適応で承認済み)が注目を集めています。DAPA-CKD試験やEMPA-KIDNEY試験という大規模国際試験の結果、糖尿病の有無にかかわらず慢性腎臓病の進行や心血管イベント・死亡を有意に減少させたことから、腎機能低下の進行を大幅に遅らせる可能性が示されました。早期発見できれば、進行をより大きく抑えられることも報告されています。だからこそ、「未病」段階で異変に気づくことが重要です。(出典:The EMPA-KIDNEY Collaborative Group, NEJM, 2023; Long-term follow-up, NEJM, 2024)
【意外なサイン2選】「夜のトイレ」と「血圧上昇」にも注意
編集部
腎臓が悪くなったときに出る「意外なサイン」が2つあると聞きました。
舛森先生
はい。1つ目は「夜間頻尿」、すなわち夜にトイレに行きたくて起きてしまう症状です。「腎臓が悪くなると尿が作られなくなるから減るのでは?」と思うかもしれませんが、実は早期(腎機能が50%程度になったとき)には、逆に尿量が増える場合があります。
編集部
機能が低下しているのに尿が増えるというのは不思議です。
舛森先生
腎臓の機能が100→50%に低下すると、腎臓のパワーが足りず、健康なときと同じ濃度の尿で老廃物や不要なミネラルを排出することができなくなります。簡単に言うと、「薄いおしっこ」しか作れなくなるのです。
すると腎臓は、「『薄いおしっこ』を量で稼いで、なんとか体のミネラルバランスを保ち、老廃物を出そう!」と頑張ってしまいます。その結果、尿の回数や量が増え、夜間にもトイレに起きるようになってしまうのです。ただし、夜間頻尿は前立腺肥大症や過活動膀胱など別の病気でも起こるため、必ずしも原因が腎臓に限らないことは覚えておいてください。
編集部
「薄いおしっこを量で稼ぐ」というメカニズムなのですね。2つ目はなんでしょう。
舛森先生
2つ目は「血圧の上昇」です。腎臓は血圧を調整する役割も担っています。血圧は、心臓が1回の拍動で出す血液の量と血管の広さ(抵抗)で決まりますが、心臓が出す血液の量は、血管の中の水分量にも関係しています。つまり、腎臓が悪くなって尿が出せなくなると、血管の中の水分量が増えてしまうため、血圧が上昇します。「食生活を変えていないのに突然血圧が上がり始めた」という場合は、腎臓が悪くなっているサインかもしれません。いずれにしても、これらの症状がある時点で何らかの病気が隠れている可能性が高いため、すみやかに受診を検討してください。

