佐藤雅晴が到達した技法「ロトスコープ」が生む、知覚の揺らぎ

佐藤雅晴氏の作品を語る上で欠かせないのが、「ロトスコープ」という技法です。これは、実写で撮影した映像をひとコマずつペンでトレースし、アニメーションとして再構築する手法。
一見すると、何の変哲もない日常の風景。
しかし、そこには実写ではあり得ない「滑らかすぎる動き」や「あまりに明晰な色彩」が混在しています。「これは現実(REAL)なのか、それとも描かれた非現実(UNREAL)なのか」。
見る者の脳裏に生じるこの小さなバグこそが、佐藤作品の醍醐味です。
今回の個展『REAL≒UNREAL』では、そのタイトルの通り、私たちが信じている「現実」の輪郭を優しく、かつ鋭く解きほぐしていく体験が待っています。
ドイツ時代から晩年まで。27点の作品が紡ぐ「存在と不在」の物語
本展の大きな魅力は、その構成の幅広さにあります。
2000年代初頭にドイツ・デュッセルドルフで制作された初期の貴重な作品から、後年の円熟味を増した作品まで、映像と平面作品を織り交ぜた計27点が展示されます。
佐藤氏の作品には、ドラマチックな事件は起きません。ただそこにある空き地、静かに動く遊具、誰かの背中――。
しかし、それらを丁寧にトレースし直す行為によって、そこにあったはずの「実在」が削ぎ落とされ、代わりに言葉にできない「気配」や「記憶」が浮かび上がってきます。
2019年に逝去した彼が、病と向き合いながらも描き続けた「存在の不在/不在の存在」というテーマ。作品群を巡ることは、彼が最期まで見つめ続けた「世界への眼差し」を追体験することに他なりません。
