なぜ今、肥満症対策なのか―「スティグマ」という壁
「個人の責任」という誤解が治療を遠ざける

肥満症対策がなぜ重要かについて、イーライリリー・アンド・カンパニー取締役会長兼最高経営責任者のデイビッド・A・リックス氏が解説しました。リックス氏は、肥満症は糖尿病などに直結する慢性疾患でありながら診断や治療が十分に行き届いていないと指摘しました。背景にあるのが、肥満症を「個人の自己管理の問題」と誤って捉える見方です。こうした誤解がスティグマ(偏見)を生み、治療へのアクセスの不均衡につながっていると述べました。そして超高齢社会の日本において、肥満症対策は個別の健康問題ではなく社会全体の課題だと訴えました。
「努力不足」ではなく「科学の遅れ」だった

国家公務員共済組合連合会虎の門病院院長で、日本医学会の会長も務める門脇孝先生は、肥満症が多くの健康障害の基盤にあるからこそ、肥満症を治療すれば関連する疾患をまとめて解決できる点に意義があると説明しました。従来の肥満症治療は食事療法や運動療法が中心で、うまくいかないと患者さんの努力不足とされがちでした。
しかし門脇先生は「肥満には多くの遺伝子や生理的な調節機能の異常、社会的・経済的な背景が関わっており、本人の努力で左右できる部分はごく一部だと科学的に明らかになってきた」と指摘します。よい薬がなかったのは科学が追いついていなかったためで、患者さんの努力不足ではない――こうした理解の広がりが、スティグマの払拭につながると語りました。
23学会との産学連携―延べ2万人の医療従事者に情報提供

2025年10月に結んだ産学連携に基づく取り組みの進捗については、日本肥満学会副理事長で領域横断的な肥満症対策の推進に向けたワーキンググループ委員長を務める山内敏正先生がビデオ出演で報告しました。山内先生は、肥満症を生活習慣の問題ではなく医学的な疾患として社会全体で捉え直す必要があると強調しました。
日本では、肥満そのものを理由に医療機関を訪れる人は多くありません。糖尿病や循環器疾患で通院するなかで、肥満症への対応が必要になる場面のほうが多いのが実情です。だからこそ、一部の専門医だけでなく、日常診療に関わる幅広い医療従事者が肥満症の基本的な知識を共有することが重要だといいます。
ワーキンググループには23の医学会が参加し、生活習慣の改善から薬物療法、外科的治療まで含めた医療のあり方を、学会の垣根を越えて議論しています。これまでに延べ2万人規模の医療従事者へセミナーなどで情報を届けてきました。2026年中には7つの学術集会で関連セミナーを予定しているといいます。山内先生は「かかりつけ医が必要性に気づいても、どう専門医療につなげるかには課題が残る。議論を通じて、より適切な診療体制につなげたい」と締めくくりました。
*本稿には特定の治療法についての記述がありますが、情報提供のみを目的としたものであり、医療上の助言や受療促進などを目的とするものではありません。
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