死骸の周りには未知の生き物たちが集まっていた
クジラの死骸は終わりではありません。深海では新たな生命の始まりともなります。現在進行形で分解が進むクジラの死骸には、細菌が群がり、骨に含まれる脂肪を分解して硫化水素を生み出します。その化学エネルギーを利用して、多くの生物が生息していました。
調査ではクラゲや甲殻類、二枚貝、オウムガイ、さらには骨を食べることで知られるオセダックス属のワームなど、多様な生物群集が確認されています。場所によっては1平方メートルあたり最大2840個体もの生物が集まっていたといいます。
さらにDNA解析の結果、多くの生物が既知種としては特定できず、新種である可能性も浮上しました。研究チームは、このような極限環境が未知の生物多様性の宝庫であることを示していると説明しています。太陽光が届かず、水圧も極めて高い世界であっても、生命は独自の進化を続けているというわけです。
なぜ500万年以上も残ったのか。深海が生んだ天然の保存庫
もう一つの大きな謎は、なぜクジラの骨が数百万年もの間、残り続けたのかという点です。
ゴッドフリー氏によると、その理由の一つはハクジラ類の吻部(ふんぶ)、いわゆる「くちばし」の骨が非常に高密度で丈夫なことにあります。現存する脊椎動物の中でも、特に硬い骨の一つだとされています。
さらに深海では、海水中の鉄やマンガンの酸化物が骨の表面を覆い、一種の保護膜を形成します。この鉱物のコーティングによって骨の分解が抑えられ、まるで天然の石棺に包まれたような状態で保存されたと考えられています。
研究者たちは、ディアマンティーナ断層帯がハクジラ類にとって豊かな餌場だった可能性も指摘しています。調査中には多くのイカや魚類が観察されており、クジラが集まりやすい環境だったのかもしれません。
「深海の墓場」は、過去の生物を調べる化石産地であると同時に、今も新たな生命を育む生態系でもあります。研究者たちは、南アフリカ沖や南極周辺でも似たような場所が見つかる可能性があると考えています。
明らかになったのは、クジラの死骸が単なる終着点ではないということ。530万年前の化石と、今も分解が進むクジラの死骸が同じ海底に残されている光景は、深海にまだ多くの謎が残されていることを改めて感じさせます。

