分布も生息深度も予想以上だった
今回の発見は、ゴブリンシャークの生息域に関する従来の認識を大きく変えるものでもありました。
これまで研究者たちは、この種が日本周辺やオーストラリア沿岸、米国西部の太平洋海域、さらに大西洋やインド洋の一部に限られて生息すると考えていました。しかし、今回の2例はいずれも中部太平洋で確認されており、既知の分布範囲を大きく広げる結果となりました。
さらにトンガ海溝で観察された個体は、これまでの記録より約700メートルも深い場所で発見されました。
論文筆頭著者でハワイ大学マノア校の博士課程学生アーロン・ジュダ氏は、「この種がこれほど深い場所で発見されたことに非常に驚きました」とコメント。今回の記録によって、ゴブリンシャークだけでなく、ホオジロザメやアオザメなどを含むマグロザメ目全体の深度記録にも影響を与える可能性があるとしています。
わずか20秒がもたらした大きな発見
共同研究者でミンデルー・UWA深海研究センター創設所長のアラン・ジェイミソン教授は、「ゴブリンシャークは、生きた姿を見ることはないだろうと思っていた深海生物の一つでした」と振り返ります。
トンガ海溝の調査では、水深800メートルから1万800メートルの範囲で50日以上にわたる連続観測が行われました。しかし、ゴブリンシャークが映像に現れたのは20秒余りというわずかな時間でした。
それでも、その短い映像は大きな意味を持ちました。どこに生息し、どれほど深い海まで分布しているのか。その手がかりが初めて自然な状態で得られたからです。
ジュダ氏は今回の発見について、「それまでは、その場所にゴブリンシャークが生息していることさえ分かっていませんでした」と話しています。
深海を調べ続けた研究者たちでさえ、「まさか見られるとは思わなかった」というゴブリンシャーク。その姿が映ったのはほんの一瞬でしたが、長い吻を暗闇の中からのぞかせる様子は、深海生物ならではの強烈なインパクトを放っています。いまだ未知の世界が広がる海で、約1億2500万年前から続く“生きた化石”は、今なお研究者たちを驚かせ続けているようです。

