“アンモニア”で「口からトイレ臭」、性格にも変化が表れる
編集部
目や皮膚の色の変化は要注意ですね。続いて4つ目のサインを教えてください。
舛森先生
4つ目は「口が臭くなる」ことです。たとえば公衆トイレなどで、ツーンとくる酸っぱい「アンモニア臭」を嗅いだことがあると思いますが、この公衆トイレと同じ臭いが口からしてくることがあります。
編集部
一体なぜですか?
舛森先生
食事から摂取したタンパク質や筋肉が分解されるときに、体内でアンモニアが発生します。通常は肝臓がアンモニアを解毒し、「尿素」として尿に流すため、体や尿はそこまで臭くなりません。しかし、肝臓の機能が低下するとアンモニアを分解できず、血液中を巡って口からアンモニア臭がしてしまうのです。家族に口臭を指摘されたら、肝臓のSOSかもしれません。
編集部
アンモニアが全身を巡ると、ほかにはどのような症状が出ますか?
舛森先生
5つ目のサインが「イライラ、眠気」で、これらの原因もアンモニアです。アンモニアが血中を巡って脳に到達すると、意識がぼーっとしたり、重症の場合は昏睡状態(目を覚まさなくなってしまう)に陥ることもあります。
初期の段階では、性格が子どもっぽくなったり、何事にも無関心になったりと「性格の変化」が出るとも言われています。また、「羽ばたき振戦」といって、手を前に出したとき鳥が羽ばたくように手がピクピクと震える特徴的な症状も表れます。単なる疲れやストレスだと放置しないことが大切です。
「お腹だけ太る」「全身だるい」…身体にも異変
編集部
脳にまで影響が及ぶのですね…。では、6つ目のサインをお願いします。
舛森先生
6つ目は「太る」ことです。太るといっても脂肪がつくのではなく、腹部に水が溜まる「腹水(ふくすい)」によってお腹が出ている状態です。腎臓が悪い場合などは重力の影響で足からむくむことが多いのに対して、肝臓の場合はお腹に水が溜まるのが特徴です。
編集部
なぜ、お腹に水が溜まるのでしょうか?
舛森先生
血液の流れを考えるとすぐにわかります。
私たちが小腸や大腸で吸収した栄養や水分は、「門脈」という血管を通って真っ先に肝臓に集まってきます。しかし、肝臓がカチコチ(肝硬変)になっていると、血液の流れが悪くなり「渋滞(うっ滞)」を起こします。血液が渋滞すると、肝臓の手前にある腸などの血管から、血液中の「血漿(けっしょう)」という透明な液体の成分が染み出してきます。この液体によって、お腹がパンパンに張ってくるのです。
編集部
「なぜそうなるか」がわかると理解しやすいですね。最後の7つ目のサインは何ですか?
舛森先生
7つ目は「全身のだるさ(全身倦怠感)」です。肝臓はアルコールや薬だけでなく、食べ物や全身の細胞から出たあらゆる老廃物を解毒・排出する働きがあります。つまり、肝臓が悪くなると老廃物が全身に溜まっていき、結果として強い倦怠感が生じます。
また、「肝腎(かんじん)」という言葉があるように、肝臓と並んで重要な臓器が「腎臓」です。腎臓も老廃物を尿に出す役割があるため、腎臓が悪くなったときも同じように体がだるくなることがあります。
編集部
肝臓のSOSサイン、どれも明確なメカニズムがあることがよくわかりました。
舛森先生
最後に、明るいニュースもお伝えしますね。
これまで長らく「脂肪肝が進行したMASH(脂肪肝炎)に効く薬はない」と言われ続けていましたが、2024年3月、FDA(米国食品医薬品局)により、世界初のMASH治療薬「レスメチロム(商品名Rezdiffra)」が承認されました。臨床試験でも前向きな結果が報告されています(Harrison SA et al. MAESTRO-NASH Trial. NEJM. 2024)。
この薬は現在、日本では未承認です。しかし、世界的には「治療できる脂肪肝の時代」が始まっているといえるでしょう。進行前の「7つのサイン」を知っておき、異変を感じたら早期に医療機関とつながっておく。この価値は日本人の私たちにとってもますます大きくなっているのです。

