ヴィンターハルターが描いた美しすぎる皇后
ヴィンターハルターの数ある肖像画のなかでも、とりわけ高い人気を誇るのがオーストリア皇后・エリザベートを描いた作品です。作品に込められたヴィンターハルターによる“美の演出”を見ていきましょう。
銀色の星が輝く『エリザベート』の肖像
エリザベートの髪飾り, Public domain, via Wikimedia Commons.
オーストリア皇后エリザベートは愛称“シシィ”としても知られ、その圧倒的な美しさから当時から多くの人々の憧れの存在でした。エリザベートの肖像画でまず目を引くのは、豊かに流れる長い髪に散りばめられた“シシィの星“とも呼ばれる銀色の髪飾りです。
“シシィの星“により、エリザベートの繊細な顔立ちや透明感のある雰囲気がより際立っています。髪の流れや光の入り方まで計算された表現によって、華やかさを感じさせる絵です。
より美しく―ドレスの絶妙な質感も表現
エリザベートのドレス, Public domain, via Wikimedia Commons.
肖像画で描かれたエリザベートはチュール素材のボール・ガウンをまとい、空気を含んだような軽やかさが感じられます。繊細な金色の刺繍が施されたドレスは、オートクチュールの父でもあるシャルル・フレデリック・ウォルトが手がけ、その洗練されたデザインは当時の王侯貴族たちを魅了しました。
ヴィンターハルターは華やかな衣装の質感までも丁寧に描いています。ふんわりとしたチュールの柔らかさや、宝石が放つ繊細なきらめきは単なる装飾ではなく、人物の美しさを引き立てています。
写真技術がすでに存在していた時代でありながらも、現実を写すだけでは届かない理想の美を、ヴィンターハルターは絵画として完成させていました。
つくられた“エリザベート伝説”
エリザベートは美しさに強いこだわりを持つ一方で、歯並びや歯の色を気にしていたといわれています。人前では扇子で口元を隠すこともありました。ヴィンターハルターの肖像画でも彼女は口を閉じ、手に扇子を持った姿で描かれています。
肖像画は、エリザベートの理想の姿を後世に伝える役割も果たしました。その結果、美しき皇后・エリザベートという印象は写真以上に強く人々の記憶に刻まれ、現在まで受け継がれています。
【まとめ】成功しすぎて夢を失った
エリザベートをはじめとする王侯貴族たちを美しく描き、一流の宮廷画家として大成功を収めたヴィンターハルター。しかしその成功は、皮肉にも彼を本来目指していた歴史画から遠ざけることになりました。
人々に求められる絵を描き続けた結果、描きたい絵を描く機会を失ってしまったのです。名声の裏には、芸術家としての葛藤が隠されていました。
