「藤井弁当」のシンプルさはどこから来たのでしょうか。長野にセカンドハウスを持ち、食生活を整えたら臨月並みだった体重が戻り、湿疹も治まったと言います。「シンプルにすればするほど、豊かになる」。そう語る藤井さんに、クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」で、食と暮らしの哲学について聞きました。
キャラ弁を作っても娘は食べなかった。「藤井弁当」誕生の原点
長女の幼稚園入園を機に、藤井さんのお弁当作りが始まりました。最初はうさぎのおにぎり、レインボーカラーのおかず、手の込んだキャラ弁。ところが娘さんは全く食べない。「お弁当作る側の思いだけが強くて、娘の気持ちを全く汲んでいない、一方通行のお弁当作りだった」と振り返ります。
幼稚園の先生に相談した結果、食べ慣れたものを少ないくらいのボリュームで詰めるようにしたところ、娘さんは残さず食べてくれるように。地味でいい、茶色くていい、カッコつけなくていい。この幼稚園で教わった考え方が、藤井弁当の哲学の原点になりました。
弁当作りを変えたのは、娘さんだけでなく自分のためでもありました。料理研究家なのに、毎朝の弁当作りが憂鬱で仕方なかったと話します。
「とにかく気が重くて。頑張らなくちゃとか、誰か見てるなという気持ちもあったりして、もう切羽詰まってきちゃって」
そして辿り着いたのが、「卵焼きフライパンで3品作る」スタイル。鍋を変える手間や洗い物も少ない。楽になったら、笑顔になれたと話します。
さらに娘さんから「おばあちゃんの甘辛卵焼きだけでいい」と言われたことをきっかけに、豊富なバリエーションも必要ないと気づいた藤井さん。お弁当は、塩茹でブロッコリー、甘辛い卵焼き、肉か魚の主菜の定番3品が軸に。すると、二日酔いの朝でもサッと作れるようになったそうです。
「お弁当って、私、文字のない手紙だと思っていて。お弁当を持っていって、きちんと食べて、空っぽになってきたら良かったとホッとするんです」
念願の一冊『のり弁サーティワン』。2センチのご飯が生む幸せ
今年2月には、念願の一冊『海苔弁31(サーティーワン) 海苔は立派なおかずです』(誠文堂新光社)が出版されました。のり弁だけで31日分というストイックな企画はなかなか出版に至らず、受け入れてくれる版元をずっと探し続けていました。
「四角いものにきっちり詰めるっていうことが大好きなんですね。見てるだけで私自身でも幸せになるぐらいで」
この日はスタジオに5種類ののり弁が登場。バラ海苔鮭そぼろご飯、カリカリ梅ご飯に鶏もも照り焼き、焼き海苔と削り節醤油ご飯……どれもシンプルですが、ご飯の深さだけは2センチを絶対に守るといいます。
「2センチのご飯の上に醤油を塗った海苔を乗せて、箸で1口大に切ってから口に運ぶと、ご飯と海苔のバランスが絶妙においしくて。厚いとご飯が勝ってしまう。薄いと海苔ばっかりになってしまう。口の中にちょうどいい大きさが入る、その心地よさがのり弁の魅力です」
のり弁のこだわりは、炊飯にも及びます。冷たくなってもおいしいご飯の決め手は、研ぎ方と水加減。白い水が出なくなるまで丁寧に研ぎ、前日の夜に研いで冷蔵庫に入れておき、翌朝そのまま早炊きにするのがマストだといいます。夏は水少なめで傷みにくく、冬は水多めで硬くなりにくい。季節によって水加減を変えることが、冷めてもおいしいご飯につながるそうです。
「ご飯と海苔さえあれば大ご馳走だと、私は思ってます」

