テーブルにたたきつけた「離婚届」
その日は、透哉がいつものように「一穂なら……」と不満を漏らした夜でした。
「ねえ透哉、そんなに一穂さんがいいなら、どうして別れたの?」
私が静かに問いかけると、彼は一瞬怯み、すぐに声を荒らげました。
「それは……価値観が合わなかっただけだよ! でも今の俺なら、もっとうまくやれる。お前みたいなかわいげのない女と一緒にいるより、よっぽどマシだ!」
「分かった。じゃあ、その願い、叶えてあげる」
私はカバンから一通の封筒を取り出し、テーブルに叩きつけました。
「これ、何だよ」
「離婚届。それから、あなたが今まで隠れて一穂さんとやり取りしていた証拠のコピー、私への暴言の録音。全部ここにそろってるわ」
理沙は着々と離婚の準備をすすめてきました。元妻の誘惑にまんまとハマり、理沙に対して暴言をはく夫。弁護士に相談し、証拠をそろえ、離婚届を突きつけます。
夫は「プライバシーの侵害だ」とわめきちらしますが、先に不誠実なことをしたのは夫のほうです。
夫の謝罪の言葉はとどかない
私はその足で、荷物をまとめて陽生を連れ、実家へと向かいました。透哉は玄関まで追いかけてきて「ごめん、悪かった! 写真は消すから! もう連絡もしないから!」と叫んでいましたが、その言葉に何の重みも感じません。
翌日、私は一穂の今の夫にも、共通の知人を介して「あなたの妻が私の夫と不適切なやり取りをしています」と、証拠を添えて連絡を入れました。
一穂もまた、再婚相手との関係に悩み、逃げ道として私の夫を利用していただけ。 彼女の家庭も、これで無傷ではいられないでしょう。 自業自得です。他人の家庭を壊してまで手に入れたい「過去の栄光」なんて、泥沼の中にしか存在しないのですから。
実家に着くと、母が温かいお茶を淹れてくれました。
「よく頑張ったわね、理沙。陽生は私たちが一緒に育てるから、安心しなさい」
陽生の無邪気な寝顔を見ながら、私はようやく、心から深く息を吸い込むことができました。
理沙は元妻に対しても制裁を行いました。元妻にも、他人の家庭をめちゃくちゃにした報いがおとずれたのですね。
そして、夫はすべてをうしないます。

